§ そにょ7 ☆この状態に気付いた作者が一番驚いた☆

 冒頭に顔文字を使っているので、横読みを強く推奨します。



*****



 バキャッッッ!!


 隣のショウさん達の店舗から、派手な音がひびいてきた。

 施術録を書いていた私、倉持くらもち亜梨子ありこことクラムチャウダー・シラタマゼンザイ・アーリオオーリオは上体を机から起こした。


 タイミングが良いのか悪いのか、ちょうど整骨院に患者さんも居なかったので隣をのぞきに行く。

 外もコロナで人通りが少ないから、スクラブ白衣を着たままで構わないだろう。

 マスクだってしてるし。


 隣は住居兼用の古いタイプの店舗なので、手前が店舗スペースで奥と二階が居住スペースだ。

 さっきの音の感じから、二階が発生源だろう。

 私は迷いも無く奥に上がると、階上へトントンと足を踏み鳴らして登っていく。



 ショウさんがパンツ一枚で倒れてノビていた。



 床からはバネ仕掛けのボクシンググローブが飛び出して、ショウさんのほほれ上がっている。

 犯人は間違いなく、床からコンニチワしているコイツだ。

 周囲にはショウさんの衣服が散乱している。


 奥には布団の上に座って(   ゚д゚)な顔でショウさんを見るフェットチーネさん。

 裸にリボンを巻き付けただけのヤバい格好。

 もうそんな姿になるなら某夜想曲なサイトに行きなよ、ってツッコミを入れたくなる。


 フェットチーネさんはそのまま(   ゚д゚)の顔でショウさんを見続ける。

 やがて私に気が付いてこちらを向いた。

 (   ゚д゚)

 ( ゚д゚  )


「こっち見んなw」


 なぜか私は、そう答えなければいけない気がした。



*****



「ええと、つまり『私がバレンタインのプレゼントよ〜!』と奥で待ち構えとったフェットチーネさんを帰宅したショウさんが見た、と」


「はい」


 フェットチーネさんは普段着に着替えて正座して、気絶したショウさんを膝枕している。

 私はおでこに人差し指を当てて、少しうつむきながら続ける。


「で、それ見て辛抱たまらんようになったショウさんが、某泥棒アニメのあの有名シーンみたいに服を一気に脱ぎながらジャンプした。間違い無いですね?」


「はい、間違いありません」


「んでジャンプする時に、以前ショウさんが自分で仕掛けた罠のスイッチを自分で踏んでしもうた、と」


「はい、その通りです」


 まるで警察の事情聴取なやりとり。おかげで事件の概要がいようが良く理解出来た。

 まぁ見ただけで大体分かったけど。


「はぁ。自分からオヤクソクを踏み抜いていくとは……」


「もっと恥じらいを見せた方が良かったです?」


「そういう問題ちゃいますよ。いやフェットチーネさんは、確かにもう少し恥じらいを持った方がオンナの武器を効果的に使えますけど」


「私はショウの気を引けたら充分やけど」


「ショウさんだって男でしょ?」


「なるほど、確かに」


 そこへブランちゃんが帰ってきた。

 彼女も二階へ上がってきて、この状況を見るとそれだけでぐに全てを理解する。


「またか。アホやなぁショウ」


 『また』なんかい。





「ったく、ミトラみたいに恵まれた立場になったっちゅうのに、何をやっとるんやショウ」


「あ? なんで俺がミトラなんだよ!?」


 ブランちゃんの言葉に、突然ショウさんが跳ね起きた。

 この反応の速さ、とっくに目覚めてフェットチーネさんの膝枕の感触を楽しんでたな。

 ブランちゃんは腰に手を当てて仁王立ちになって、床に胡座あぐらをかいているショウさんを見下ろし続ける。

 ちなみにショウさんはまだパンツ一枚だ。


「なんでって……ショウは異世界転移した身なんやで? そんでフェットチーネさんを筆頭にやで? ウチやろ? クラムちゃんやろ? それに紅乙女ちゃんかて数に入れてエエんちゃう?」


「あ、ホンマや。女性陣に囲まれてうらやましいハーレムな立場やなぁ、ショウさん」


 その私達の言葉に、頭を抱えて上体を俯け思わずうめくショウさん。

 パンツ一枚で。


「ホンマだマジだ……! うおぉぉ、俺がミトラと同じに!? ミトラと、ミトラで、ミトラがぁぁ!!!?」


「あーら本当ね。良い立場になってるじゃないのショウ」


 ショウさんの後ろから、フェットチーネさんが腫れたのと反対側の頬を軽くつねった。

 もちろんその顔は別に怒ってる訳じゃない。

 旦那をいじる良いネタを見つけた、みたいな表情ではあるけれど。


痛いいひゃいですうれふう


 姿勢を崩さずに、そう弱々しく抗議するショウさん。少し涙目になっている。

 パンツ一枚だけど。





「まぁしかし、さっきはああ言うたけどもや。この状態はいわゆる『ハーレム』とはちょっと違うと思うし、心配すんなやショウ」


 そうブランちゃんは言った。

 コンビニで買ってきたチョコクリームが入ったエクレアを食べながら。

 床に胡座をかいて座って、頭を抱えたままのショウさんに向かって。

 パンツ一枚だけど。


「……どういう事でございましょうかブラン様」


 ひたいに右手を置いたまま、視線だけをブランちゃんに向けるショウさん。

 普段なら割とサマになってる仕草しぐさだけど、今は強烈に決まらない。

 パンツ一枚だし。


「一般的に言われてる『ハーレム状態』って、囲んでる女みんなが同じ男をいとるのがパターンやろ?」


「まぁそうだな」


「ああ、覚えがあるわー。向こうの世界で私が最初にミトラのパーティーに参加した時。メンバーみんな女で全員がミトラに色目使ってんの」


 と、フェットチーネさんが参戦。

 後ろからショウさんに身体をかぶせて首に腕を回し、あごをショウさんの頭に乗せた。

 ショウさんがかすれた声でフェットチーネさんに弱々しく抗議。


「ふぇ……フェットチーネさん。む……胸があたってるんですけど……」


「当ててんのよ」


 うむ、さすがはフェットチーネさんである。


「始めはショウの存在が伏せられててさ。そんで皆がやってるから、つられて私も二、三回ほど色目やってみたけど馬鹿らしくてすぐに止めたわ」


「仕方が無いとは言え、ミトラに色目を使ったフェットを考えると複雑な気分だな」


 顔を赤くしたまま少し不機嫌そうにつぶやくショウさん。

 ブランちゃんが咳払せきばらいをして話を戻す。


「つまりや。クラムちゃんは別にショウを恋愛対象として見とらんやろ? ウチも正確には本物マロニーの方やったしな、好意の先は」


「そやねー。ショウさんはちょっと肉が無さ過ぎるんよね。男ならもっとでっぷり肉を付けて貫禄かんろく無いと。あ、そうそう、この前から来てもろてるアルバイトの男の子、いい感じにポッチャリしてんねん!」


「……ま、まぁクラムちゃんの男の好みは置いといてや。紅乙女ちゃんのも恋愛対象としての好意とは違うやろ?」


「ご主人様の刀さばきへの向上心は素敵です! 日本刀冥利みょうりに尽きます! 胴体を上下に真っ二つにちょん切れますよ!」


 ショウさんのそばに現れて、凄く良い笑顔で親指を立ててサムズアップする紅乙女ちゃん。

 うん、コレは恋愛感情とは言わない。もっとヤバい感情だ。


「えーと、結局何が言いたいのか分からんようになってきたな。……つまりや、ウチらの好意は恋愛感情が絡んでないからハーレム状態とは違うっちゅうこっちゃ」


 と、指についたチョコクリームを舐めながらブランちゃん。

 それを見て私は頭に何かが引っかかる。

 なんだっけ? ブランちゃんの指に付いているチョコで思い出しかけてるんだから──。

 チョコ……チョコ……。

 ああそうだ、事の発端はバレンタインのプレゼントやったっけ。


「へえっくしょーん!!」


 ショウさんが咄嗟とっさに口元を右手で覆いながらクシャミする。

 そら、いつまでもパンツ一枚だけだとそうなるわな。

 私は軽くため息をついてから言った。

 うん、コレが言いたかったんだ。


「それじゃ、患者さんに配る用のひと口サイズチョコが余ってるんで、それをお茶受けに休憩しますか? どうせコロナで患者さん来ないし」


「さっき言ってたアルバイトの男の子も誘ったらどうだ?」


 ショウさんはそう言いながら立ち上がる。

 そして鼻をすすりながら、自分の散らばった服へと歩き出した。


「関西でも緊急事態宣言が発出してるから、休んでもろてます」


「そうか仕方ない、あんまり集まっても密になるだけだしな。じゃあお茶の準備しとくから、クラムチャウダーは治療所にチョコを……」



 バキャッッッ!!



 見るとそこには、壁から飛び出したバネ仕掛けのボクシンググローブ。

 それに殴られ倒れて気絶しているショウさん。

 

 パンツ一枚で。

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