§ そにょ6 ☆エロゲキャラは一日にして成らず☆

「アハッピーニューイヤー!」


「明けましておめでとうございます」


 コタツに座ると、俺たちはお互いにそう挨拶し合った。

 例のコ○ナが流行っているので、今年は家でゆっくりとするつもりだ。

 しかしこのコタツってのは凄まじいな、一度入るとなかなか抜け出せないぜ。


「は~、なんか幸せ。私、寒さには慣れてるつもりやったけど、このコタツを知ってしまったら昔に戻れる自信無いわ~」


 フェットが身体を投げ出すように、コタツの天板に顔を乗せた。

 目を閉じて、その表情はうっとりとしながら微笑んでいる。

 ラジオからは各地の様子を伝える国営放送が流れていて、俺たちの頭の中を通過していく。


「おはよ……明けましておめでとう、フェットチーネさんにショウ。なんでテレビつけへんの?」


 二階から降りてきたブランが新年の挨拶と共にそう言ってきた。


「テレビなあ……。春からずっとコロ○が何人増えたとか、国のコレがあかんアレがあかんとかばっかりやしなあ。新年ぐらいそういうのは抜きにしたいかなあ、とな」


「あーなるほど。ラジオはまだマシやもんな」


「こんな凄いもんが当たり前に流通してんのに、勿体ない使い方してるわよねえ」


 ため息をつきながら、フェットがこぼす。

 俺もアメリカでの経験を思い出しながら返答。


「案外そんなもんだろ。有難みが無くなるとぞんざいな扱いになるからな」


「ショウたちエルフが『ふくよかな』体形の人を好むみたいにね」


「あー……まあそういう事だな。長いこと人間が俺たちエルフをなぜ持てはやすのか、理解しずらかったけど」


「で、私たち人間は、なぜエルフが王侯貴族のデブ共を持て囃すんか理解に苦しんでたけどね」


「ははは。お互い様だってことを分かってしまえば、何てことはないんやけどな」


「いや、ウチもショウの世界のエルフの感性が理解できひんねんけど。……ウチ、エルフやったよな?」


 そう頭を抱えるブラン。

 出身世界が違うとこうも変わるんだな。


「まあ出身世界によっては完全草食な連中もいてるらしいしな。過激派ビーガン? だかになってるエルフもいるとかいないとか聞くけど」


「知性が高くて物腰柔らかい優雅な種族の名が泣くで、ホンマ」


「あれ、誰がそのイメージ広めたんやろうな。内実はプライドが高いだけの老害の塊ばかりがそろってるだけやのにな」


「でも知識はすごい人が多いやろ?」


「全然すごくない。勉強して得た知識なら凄いって思えるけど、単に長生きしてるうちに溜めこんだ余計な迷信や偏見ばかりだからな。間違った知識をもっともらしくドヤってるエルフが実はほとんどだぜ」


「おおう、酒が入ってないのにショウの舌がめっちゃ回っとる。さすがに長年溜めこんだ愚痴は多いな」


「ありゃ、新年早々に辛気しんき臭いのは嫌やからと、せっかくテレビ絶ちしたのにスマン」


 そんな俺とブランのやり取りに、フェットが割り込む。

 両手をパンと打ち合わせて鳴らして俺に言う。


「それじゃ、前向きな話題で行きましょうか。先週のクリスマスの時の話やけど、キリーちゃんの触手でエロプレイをする話」


「それ、前向きって言うんでしょうか奥様」


「夜の生活に潤いをもたらす良い材料をどうするかの話なので、立派に前向きです!」


 思い切りドヤ顔でキッパリ宣言するフェット。

 思わず二の句が継げなくなった俺とブラン。

 その後ようやく絞り出すようにセリフを吐いた。


「言い切ったなフェットチーネさん」


「言い切られてしもた」


「じゃあ私は向こうの空間に戻って、キリーちゃんの監視と叱咤激励をしますね、ご主人様」


 紅乙女がそう俺に告げる。

 すると、俺の左手におびえの感覚が走った。

……よし、雇用者の安全を確保するのも契約主の勤めだ。


「大丈夫だろ、そこまでしなくても。キリーちゃんもやる気充分みたいだし」


 俺が紅乙女にそう言うと、キリーちゃんの触手も必死にうなずくように激しく上下に振られる。

 紅乙女はやや残念そうにつぶやく。


「そうですか、ご主人様がそう言うのなら。……ちぇ、キリーちゃんの斬りごたえ凄く良いのに」


 いや、だからそれがダメなんだってば。

 キリーちゃんが向こうの空間ですっかり怯え切って泣いてるでしょ。

 フェットが俺に誘いかける。


「で、どうするの? まずは私の足をエロ親父がめるように撫でまわす?」


「いやクラムじゃないけど、女性がそんな事言っちゃダメでしょ。少なくとも俺が悲しむ」


「はーい了解。ショウが言うなら」


「それに、まだ物をつかむ程度の単純な動作しか無理だし」


「え? じゃあいま私の太もも撫でてるのは?」


 そうフェットが俺に言ったあと、二人同時にブランを見る。

 澄ました顔でコタツに座っていたブランが、ニタッと口を歪めた。


「オヤクソクや」


「馬鹿ちん」


 フェットが軽くチョップをブランに食らわす。

 おでこを押さえて「痛っ」と小さく叫んで、ちょろりと舌を出すブラン。

 俺は盛大にため息をついた。


「はいそこ。ドサクサに紛れて知らんぷりしようとしてない」


「アノ、何ノ事デショウカ」


「はい、綺麗なセリフの棒読みありがとうござます。駄目よ、これは旦那の果たすべき義務やで」


「そうなの?」


「そうです。覚悟を決めましょう」


 思い切りドヤ顔でキッパリ宣言するフェット。

 思わず二の句が継げなくなった俺とブラン。

 その後ようやく絞り出すようにセリフを吐いた。


「言い切られてしもた」


「言い切ったなフェットチーネさん」


「ブランちゃん」


「は、はひぃ!」


「ショウの左手をコタツの上に」


「りょ……了解。ごめんやでショウ」


 そう言ってブランは俺の左手を掴むと、コタツの天板の上に置いて押さえつけた。

 フェットは上体を完全に起こし、胸の下で腕を組む。


「はい、それじゃまずはキリーちゃんの触手で私のオッパイを触る」


「うわ。なんか最高に嬉しくないシチュエーション」


「はい余計な事は考えない。私の柔らかいオッパイを触ることに集中」


 仕方がないので、とりあえずキリーちゃんの触手をほどいて伸ばす。

 縮めて力を込めることは出来るが、伸ばした状態で力を入れるのはまだ難しい。

 俺は深く集中する。

 そしてフェットの胸に意識を合わせる。


「フェットの胸。フェットのオッパイ。フェット乳房。この左手でフェットのオッパイ触る。揉みしだく……」


 呪文のように、そう呟く俺。

 しかし触手はピクリとも反応しない。


「くっ……。うおおおお! 左手を動かすことに全集中の呼吸だ! 俺に応えろキリーちゃんの触手!!!」


「がんばれショウ!」


「負けるなショウ!」


 フェットとブランが俺に声援を送ってくれる。

 俺はさらに左手に意識を集中しながら叫ぶ。


「おおおおおお! 燃えあがれ俺の中の小宇宙的な何か!!」


 ピクリ。

 俺の左手の先の触手が少し持ち上がる。


「あっ! 少し動いたでショウ!!」


「もうちょっとよ、諦めないでショウ!!」


「おおお! 無だ! 心を無にするんだ! まるで鏡のように澄み切った水のように!!」


 ぐいーーーん!


「立った! キリーちゃんの触手が立った!!」


「見て! 触手が立派に自分の力だけで立ったわ!!」


 コタツの中央では、キリーちゃんの触手が垂直にそそり立っていた。

 その見事なまでの真っすぐっぷりに、心の底からなにかが溢れて涙がこぼれる。

 ラジオから、某アメリカの有名ボクシング映画のテーマが流れる。

 フェットとブランが左右から抱きついてきた。


「フェットチーネ!」


「ショウ!」


「フェットチーネ愛してる!」


「私もよ、ショウ!!」


「これからもみんなで力を合わせて頑張っていこう!!」


「「はい!!」」


 涙を流しながら抱き合うフェットと俺。

 ブランも涙を流して俺にすがりつく。

 俺たちはいつまでもそうして抱き合ったままだった。




……あれ? 何か忘れてる気がするな。まあいいか。

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