解決法

 さて、王国の異変についての大体の事実関係を知った私はすぐに殿下の元に向かった。天変地異の原因だけでなく、私の追放とクリストフ殿下の暴政についても分かるとは思わなかったが。

 アイリスの元までたどり着くのは大変だが、事情を話してアリュシオン公爵家に助けを求めれば多少の無茶は手伝ってもらえるはずだ。もし事が大きくなってしまっても、アイリスがクリストフを魅了していたことさえ分かれば他の貴族たちも味方してくれるだろう。

 何とか独力で事態を解決し、殿下には自国の政治に専念してもらいたい。


「失礼いたします」


 私が部屋に入ると、殿下は使い魔と思われるカラスと険しい表情で会話していた。私が入ると溜め息をついてこちらを向く。


「シルア殿。このカラスは対になるカラスがいてね、そちらのカラスに持たせた魔道具を通して離れたところにいる相手と会話できるものだ。将来的には量産して国の要所に配置したいと思っているが……それはともかく」


 相変わらずすごい魔道具を発明するものだ。それがあれば、領地が離れた貴族が王都に出仕しなければいけないときや、今回のように隣国で変事があった際の連絡などに便利だろう。

 もう一羽はアドラント王国の親しい貴族にでも送っているのかもしれない。


「シルア殿、大ざっぱではあるが事情は把握した。クリストフ王子がマルスリウス伯爵を摂政に任命したため、アドラント王国の国政は乱れている。伯爵は王宮騎士団を掌握して王宮を固めている。異議を申し立てる者は全て辺境送りにしたらしい。有能な騎士ほど主命に忠実なのだが、今回ばかりはそれが仇となったようだ。その後伯爵は反対派の貴族を王宮から追い出し、戻ってこようとするのを武力で阻止している。一方、自分の言うことを聞く者たちには王宮の宝物を惜しみなく与えているらしい」

「何と……」


 まるで歴史書に出てくる古の暴君そのままの政治である。唯一の救いはまだ血が流れていないことだろうか。幸いクリストフは短気ながらも気に入らないものを自ら手にかけるほどの度胸はないようだった。しかしそれも長く続けば義憤に駆られた者たちが兵を挙げ、本当に内乱が起こってしまうかもしれない。

 私がよほど引きつった表情で聞いていたからだろう、殿下はフォローに回ってくれる。


「とはいえ伯爵は王宮を掌握したものの、その他のことは無頓着だ。何名かの貴族の領地や爵位を没収したらしいが、没収を宣告しただけで実際の処理は行われていないためそのままになっているらしい」

「それだけは良かったです」


 私は少しだけほっとする。

 もし伯爵が兵士を差し向けて強引に領地を没収しようとしていたら今頃血が流れていたことだろう。それに伯爵が没収を宣告しただけなら、後で彼をどうにかすれば元に戻すのは容易なはずだ。


「そう言えばクリストフ殿下本人はどうしているのですか? 伯爵のやることに何も言わないのですか?」

「どうも伯爵に全てを丸投げして愛人と自室に籠っているとのことだ」


 殿下は苦い表情で言った。

 いくらクリストフ殿下でもそこまでのやりたい放題が行われていればさすがに止めるだろうと思ったが、もしかしたらそれもアイリスの、というよりは闇の精霊の差し金なのかもしれない。ずっと色香で誑し込んでおけば外で何が起こっても口を挟むことはないだろう。結果、全てが手遅れになるという訳だ。


「分かりました……でしたら私が調べて分かったことですが……」


 一通りの事情を聞き終えたので今度は私が調べたことを話す。

 私はアイリスが闇の精霊と契約している可能性が高いこと、そのため私を追い出したこと、そして私に四大精霊がついてきたせいで王国に災害が起こっていることを述べた。


 思いもよらない事実に殿下は驚愕の表情を浮かべていた。

 そして私が話し終えると一言、


「そうか。事情は分かったが自分を責める必要はない」


 と言ってくれた。


「しかし……」

「精霊は人間とは根本的に価値観が違う。例えば火の精霊にとっては自分が国を離れて火山が噴火しようと、それもまた構わないことなのだろう。そのような全く異なる価値観の者たちが相手なのだ。分からないことがあるのも仕方ない」

「それはそうですが、それでも私の行動によってこの結果がもたらされたことには変わりありません」


 そもそも、よく分からない者たちを仲のいい友達か何かと勘違いして旅行気分で連れてきてしまったのが悪いのだ。


「だが、結果だけを見て考えるのであればそなたは邪竜の封印に貢献した。アドラント王国に起こっている災害と我が国の邪竜の復活を比べることは出来ない。しかし邪竜の封印のためにそなたを呼んだのは私の意志だ。その結果生じたことについては私も共に責任を負うべきだろう」


 殿下は毅然とした表情で言った。

 起こった災害と防いだ災害を相殺して納得するというのは難しいが、今回の件ではかなり責任を感じてしまっていた私にとってその言葉は素直に嬉しかった。


「それで事態を解決するにはどうするのが一番いいのか」

「アイリスを倒して闇の精霊との関係を断たせればクリストフ殿下も正気を取り戻し、伯爵も摂政を解任されると思います。そのため私は実家に戻り、力を借りて王宮に入ろうと思います」

「いや、それはまずい。それは一歩間違えれば内乱になる。それに戦いになれば王宮騎士団を掌握した伯爵に勝てるかは分からない」


 すぐに殿下は否定した。首尾よく私が王宮に入ってアイリスを無力化出来ればいいが、下手をすればアルュシオン公爵家と伯爵の全面戦争に発展する可能性がある。そして当然ながら王宮に配置されている騎士団は強い。


「ですが、現状それしか方法がありません」

「私が王国に向かう。災害が起こっているので資金援助に訪れたと言えば王子も応対せざるを得ないだろう。その場にそなたも同行させる。アイリスがいれば、私が彼女が闇の精霊と契約していることを証言しよう。もし出て来なければ、王子は闇の精霊の魅了から離れるという訳だ。話を聞いてくれるかもしれない」


 殿下が提案したのは思いもよらない方法だった。確かにアリュシオン公爵家の兵を借りるよりも成功率は高いだろうし、血が流れる可能性も低い。


 が、この方法には一つ致命的な欠点がある。


「言われてみれば王子は元々思慮が浅いところはありましたが、アイリスがいないところではそこまでおかしくはなかったと思います。ですがそのようなことをすれば殿下も危険に晒されてしまいます。場合によっては闇の精霊の力を借りた者と相対することになるのです」

「大丈夫だ、私も魔法の心得はそれなりにある。それに、邪竜の封印に付き合わせた以上そなたの危険にも私が付き合うべきだ。そうではないか?」


 殿下はいつものように絶対に譲らないという強い意志を込めた目で言った。

 殿下との付き合いは一月もないのに、なぜかもうこの目に慣れてしまっている自分がいて、複雑だ。


「殿下がそんなことでは国民は心配が尽きないでしょうね」

「そうかもしれない。だがこれが性分だからな」

「分かりました。どうせ私に隣国の王子を止める権利はありませんので」


 そうは言ったものの、殿下が危険を冒してでも来てくれるということは実際たまらなく嬉しかったのは事実だが。

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