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作戦決行は、明日の18時と決まった。恵比須祭りは17時から30分くらいで終わるので、その後になる。
シオリの家に戻った俺たちは、早速作戦会議を開いた。まずは、自分たちの体を火から守るための防火服を入手しなくては。爆弾の爆発前に行うこととは言え、火災に巻き込まれる恐れもないわけではないのだ。しかし、あいにく伯父さんは消防団員ではないし、シオリが知り合いの団員に電話しても、貸すのは無理、とのことだった。
そうなると、自前で用意するしかない。が……おそらくこの近辺でそんな物を売っている店があるとも思えないし、あったとしても、ネット調べで数万円もするので、とても俺たちには手が出ない。
ただ、伯父さんが農作業などの時に来ているツナギの作業服は、難燃素材で出来ている。これを借りて着て、その上に防寒用のアルミブランケットを加工してポンチョを作ってかぶれば、簡易的な防火服になるのではないか。
だけど、俺は伯父さんとサイズがそう変わらないからいいが、シオリにピッタリ合う作業服がない。やはり新たに買うしかないか。さすがにネット通販では明日までに入手するのは難しいから、明日の朝一にホームセンターにでも行って探すしかないな。
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翌朝。
朝食もそこそこに、俺とシオリは軽トラでホームセンターに向かった。意外に防災グッズが揃っていたのはありがたかった。ブランケットを加工しなくても防寒用アルミポンチョが売られていて、しかも値段も千円そこそこだったので、俺はそれを二つ買った。それから、防災ヘルメットと
よし。これで簡易的な防火仕様の出来上がりだ。シオリの家に戻る途中、家電量販店に寄って二つレーザーポインターを買っておく。これで必要な物は全て揃った。
シオリの家に到着したら、ちょうど昼食の時間だった。伯母さんお手製のチャーハンをいただいた後、俺はヤスの部屋に戻り、ベトナム戦で用いられた爆弾についてネットを駆使して調べた。
この時代に使われていた航空機投下用の通常爆弾は、M117 か M118 と呼ばれるタイプだ。だが、おそらく通常爆弾ならば爆心周辺の家屋は吹っ飛ぶだろうが、火災はそう簡単に起きないのではないか。明治の頃は灯油を備蓄していたりはしないだろうし、まだ七尾では電気やガスなんてインフラも整備されていないはず。
そもそも、例の「神」の本体がある、ベトナムの祠の辺りには、頑丈な軍事施設なんか何もなかった。とすれば、米軍も破壊力の大きい爆弾をわざわざ使ったりはしないだろう。となると……やはり、ナパーム弾が使われる可能性が高い。
ナパーム弾は爆心から半径50mの範囲を一瞬で焼き尽くす。しかもナパーム弾に使われる燃焼材の燃焼温度は1000℃にも達するという。そうなると、俺たちの簡易的な防火服では太刀打ちできない。やはり、爆心位置から半径50m以内の人間をワームホールで避難させ、爆発直前に俺たちも撤退する。それしかないようだ。
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17:50。
俺とシオリは、防火仕様に身を固めて西宮神社へと向かった。辺りはほとんど真っ暗だ。人通りもない。こんな妙な格好をしていても人に見られることもないだろう。ただし、防煙マスクは外して手に持っていった。これを付けていたらさすがに怪しすぎる。それに、作業は爆弾が炸裂する前にほとんど終わってしまうので、ひょっとしたらマスクは要らないかもしれないのだ。それでも一応念のために俺たちは持って行くことにした。
気温は15℃くらい。もはや上着がないと寒いくらいだが、今の俺たちの服装では逆に少し暑いくらいだった。真夏でなくて本当に良かったと思う。
この状態ではさすがに肌を露出するのは難しい。俺は不本意ながら、シオリに後ろから抱きついてもらって「神」とコンタクトを取ることにした。素肌同士を接触させなくても、接触面積が十分広ければコンタクトが可能なのは、既に夏に確かめたとおりだ。
『それじゃ、もう一度手はずを確認する。俺たちが過去に転移した瞬間から、俺たちの周囲の時間経過を 1/100 の速度に落としてもらう。そして俺たちは八幡神社から半径50mにいる人々の位置を確認し、レーザーポインタで指定するから、お前はその足下に半径1mほどのワームホールを水平に作る。そうすれば重力に引かれてその人は自動的にワームホール内に移動する。それでいいな?』
返答はすぐに来た。
"了解だ"
『爆弾が落ちたのは明治21年10月12日の13時35分23秒で、間違いないな?』
"間違いない"
『それでは、こちらの時間で18:00ちょうどになったら、ワームホールを開けてくれ』
"了解した"
俺は後ろを振り返る。
「シオリ……もう抱きついてなくてもいいんだぞ」
だが、シオリは首を横に振った。
「ううん。もうちょっこし……このままにさせといてま。こうしてると……ウチ、安心できるさけ……」
「シオリ……」彼女の声に不安そうなニュアンスを感じた俺は、聞かざるを得なかった。「怖いか? 怖いなら……お前はここにいてもいいんだぞ」
「なんもや」シオリは顔を上げて笑顔を作る。「言ったやろ? ウチ、カズ兄ぃがおったらなんも怖くない」
「分かった」
俺は心に誓った。何があろうと、コイツだけは……守ってやる。
時間だ。
神社の扉から、光が漏れる。
「シオリ、行くぞ」
「うん」
俺たちは、扉を開けた。
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