6
そうだ! ワームホールを作って、そこに人を避難させればいい。そうしたら一瞬で避難できる。どこでもいいから火事が落ち着くまでそこにいてもらえればいいんだ。
そんなことは可能なのか? とスマホに入力すると、返事はすぐに来た。
"もちろん可能だ。避難先はこの時代の石崎か、私の時代のバッチャンかのどちらかになるが"
だったら当然決まっている。この時代の石崎だ。ヤツの時代のベトナムはそもそも爆弾が降りまくっていて、ヤツのねらいはそれをこっちに転送することなのだから、そんな危険なところに避難させるのは本末転倒だ。
よし、これで避難方法はOK。しかし……問題は、時間がほとんどない、ってことだ。さっきのナイーブな計算では、爆弾が出現して爆発するまでの時間はせいぜい長くて1.5秒だ。その間に、いったい何人助けることができるものか。
その1.5秒を引き延ばすことができれば助かるんだが……そんなこと、できるわけないよな……
いや……待てよ。
それ、本当にできるわけない……か?
俺はあれから位相欠陥について学ぶため、まずアインシュタインの一般相対性理論について自分で勉強した。ワームホールというものは、空間が極端にねじ曲がっている状態と言える。しかしこの宇宙は4次元時空連続体なのだから、空間の曲がりは時間の流れにも影響を与える。実際、空間の歪みが極限に達しているブラックホールのシュバルツシルト半径では、時間が完全に止まっているのだ。
ということは……
ワームホールを使えば、俺たちの時間はそのままで、周囲の時間を遅くすることも……できるんじゃないか? そして、時間の流れが遅くなれば、爆弾が出現して爆発するまでの数秒間を大きく引き延ばすことができる。その時間内に、少なくとも爆弾が直撃する範囲にいる人たちだけでも避難させることができるのではないか?
さっそく俺がそうスマホに入力すると、すぐにヤツの返答が来た。
"それは可能だが、おそらくお前たちの周囲の時間の流れを百分の一程度の速さにするのが限界だろう。それも爆弾が炸裂するまでの間だけだ"
ってことは、俺たちの主観時間で150秒の猶予ができる、ってことか。約2分半。それだけあればなんとかなるだろう。
よし、これで作戦は決まった。過去の世界に到着と同時に時間の流れを遅くして、爆弾の直撃で命を失いそうな範囲の人々をワームホールで今の石崎に避難させる。そして、火事が落ち着いたら元の時代に戻ってもらう。
……いや、ちょっと待て。
それ、俺たちがわざわざ現地に行ってやらなきゃダメなことか?
よく考えたら、ワームホールを作るのは俺じゃなくて「神」だ。だとすれば、別に俺たちが行かなくても、神がそれをやればいいではないか。
そうスマホに書くと、ヤツの返答はこうだった。
"私はある程度コントラストが高くないと視覚的に識別できない。書物に書かれた文字は白地に黒だから容易に識別できる。真っ白な巫女衣装もコントラストが高いので識別が可能だ。だが、明治時代の一般的な日本人の服装はコントラストが低く、私には識別が非常に難しい"
……。
全く、めんどくさいヤツだなあ。てか、巫女衣装が白いのは、そんな理由だったのかよ……
ということは、やっぱり俺たちが行って人間を識別するしかないのか……だが、識別したとして、どうやって「神」に知らせればいいんだ?
その疑問に対する答えは、こうだった。
"レーザー光線か何かを照射してもらえれば、すぐに識別できる"
何じゃそりゃ。お前はペイブウェイ(アメリカ空軍のレーザー誘導爆弾)かっての……
だけど、まあいい。これでやるべき事は決まった。
「シオリ、俺たちは130年前の石崎に行って、レーザーポインターで助けるべき人間を指定する。いいな?」
シオリを振り返って俺がそう言うと、彼女は挙手の礼で応えた。
「了解!」
---
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます