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「……はぁ!?」
思いがけず声を上げてしまった。
『どういうことだ?』
"現在の記録にあるかどうかは分からないが、かつて石崎の一部の地域に、ある伝説が存在していた。明治のある年の大火の時に、八幡神社から男女の天狗が現れて、人々を火災から救って回った、という"
……男女の、天狗だって?
俺とシオリは思わず顔を見合わせる。
『まさか、それって俺たちのことか?』
"そう考えるのが妥当だ"
……。
この野郎……最初から俺たちがそう考えるように仕向けていたんじゃねえだろうな……
結局俺たちは、こいつの掌の中で転がされていただけ、ってことなのかもしれない。さすがは「神」、ってところか。
だとしても、俺はそれでも構わない。天狗扱いされようが、過去の世界で人命救助ができるのなら、望むところだ。だが、シオリの意思は……どうなんだ?
「ウチも、カズ兄ぃと同じ考えやよ」
俺の気持ちを察したように、シオリが言った。俺は彼女の目をしっかりと見据えながら言う。
「だけど……危ないぞ? 俺たちは人命救助の素人だ。しかも、火災現場は危険も多い。命の保証はないぞ?」
「なんも。大丈夫や。カズ兄ぃと一緒なら、ウチ、なんも怖くないさけ」
シオリの顔と言葉に、ためらいは微塵も感じられなかった。
「……分かった。それじゃ、一緒に助けに行こう」
「うん!」
シオリが笑顔でうなずく。
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さて、過去に人命救助に行く、というのはいいとして、いったいどうすればいいのか。どう考えても素人の俺たちだけでは、できることは限られている。やはり「神」にも手伝ってもらわないと。そもそも、コイツは最初から俺たちを人命救助に向かわせるつもりだったようだからな。
俺はスマホに入力する。
『俺たちが人命救助に向かうとしたら、お前も何か協力してくれるのか?』
"もちろん、私のできる範囲であれば、協力はやぶさかではない"
やっぱりな。だが……コイツができることは、せいぜいワームホールを作ることくらいだ。俺たちを過去に送るのはそれでできるだろう。しかし……それ以外、何の役に立つのか……
まあいい。とりあえず、まずは人命救助の方法を考えよう。
一番簡単なのは、村人を別な場所に避難させちまうことだ。しかし、いったいどれくらいの人間を避難させなくてはならないんだろう。
『お前は爆弾はいくつ転送したんだ?』
"一個だけだ。私の本体に致命的な被害を与えそうなものは、一つだけだった"
え、一個だけ? それで大火が起こっちまうのか?
まあでも、考えてみれば昔は単純な木造家屋が多かったんだろうから、一度火が点いちまえば燃え広がるのは早いのかも。それに、ナパーム弾なら一発でもかなり広範囲を燃やし尽くすことが可能だ。
『どの高度のどの場所に転送したのか、特定できるか?』
"高度はおそらく300m。場所は八幡神社上空だろう"
八幡神社は石崎の町のほぼ中心部だ。そうなると、かなりの人間を避難させなくてはならなくなる。
でも、爆弾が落ちる数時間前に転送してもらえれば、おそらく大丈夫じゃないだろうか。俺はそうスマホに入力したのだ、が……
"それは無理だ"
『なんで?』
"爆弾を送るタイミングで生成する最初のワームホールが根幹となるからだ。それ以降そのワームホールが閉じられるまでの数分間であれば、いくらでも過去の石崎にワームホールを作成できる。しかし、最初のワームホールの生成以前にお前たちを送ることはできない"
ちょっと待て! ってことは……その最初のワームホールは高度300m。そこから爆弾が出現としたとして……爆弾の終端速度が秒速200mと仮定すると……ざっくり、1.5秒くらいしか時間がない! それじゃ絶対に間に合わない! 避難なんか絶対にさせられないじゃないか!
俺がそう入力すると、ヤツはにべもなく応えた。
"私にできることはそれだけだ"
「ったくもう、使えねえ神だな!」
俺は思わず呪詛の声を上げる。
「カズ兄ぃ……そんなこと言うと、バチが当たるよ」と、シオリ。
「大丈夫だ。どうせ俺の声はヤツには届かねえからな」そう言って俺は微かに笑って見せる。
だが……
爆弾が落ちるタイミングでしか行けないとなると、避難させるのはほとんど無理だ。
いや……でも、ちょっと待てよ。
伝説では、男女の天狗が人々を助けたんだよな?
いったい、どうやって助けたんだろう。
回復魔法でやけどを治すとか……だけど、この「神」ってヤツに、そんな気の利いた事が出来るとも思えない……ワームホールを作ることくらいしかできないんだから。とすれば、いくら協力してもらったとしても、俺たちに出来るのもそれくらい、ってことだろう。
ん……ワームホール?
その時だった。
俺の脳内に閃きが走る。
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