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シオリの家に向かう道は、前回の「のと里山海道→能越自動車道」とは違うルートだった。彼女の軽トラは
「ほら、あれ」
シオリが左の海を指さす。海の中に、木の柱を組み合わせて出来た、謎の建造物があった。
高さは10メートルくらいだろうか。上を向いた四角すいの形をした骨組みだが、それぞれの辺に当たる柱が頂点の位置よりも若干長いので、頂点からさらに少しだけ放射状に広がっている。そこに板が置かれていて、その板に人が座っている。さらにその上に、骨組みだけのスカスカの天井があった。日よけにしても雨よけにしても全く機能しているようには見えない。
また、補強のためか、人が登るためのはしごの役割を果たすためなのか、四角すいの一つの斜面に、横になった木材が八十センチ間隔くらいで柱に縛り付けられ、上から下まで並んでいる。
「何? あれ」
「ボラ待ち
「え、けど人いるじゃん」
「あれ、人形」
「……マジか」
俺は拍子抜けする。
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シオリの家。夕食は超豪華な海の幸のオンパレードだった。祭りということもあるが、それ以上に俺を歓迎する意図の方が強そうだ。とにかく新鮮そうな刺身がこれでもか、とばかりに大皿に盛られている。
「カンパーイ!」
並んだ俺とシオリ、テーブルを挟んで向かいのイチロウ伯父さんとヤスコ伯母さんの四人が、揃ってグラスを持ち上げて軽くぶつける。今日は一応俺はノンアルコールのビールにしてもらった。
今回の訪問はちょうど今大学の研究室で行っている研究の一環で、今日の夜にそのデータをまとめなければならないから、というと、伯父さんは残念そうだったが、「明日は飲めれんな?」と聞いて俺が「ええ!」とうなずくと、ニコニコしながら「よっしゃ。そんなら今日は我慢しとくわ」と納得してくれた。
だけど、もちろん俺が言ったのは本当の理由じゃない。夜に控えている、神社でのミッションのためだ。仮にも「神」と名乗る存在に酔っ払った状態で会うのは、あまりにも失礼だろう。
「さあさ、たぁんと食べまっし!」伯母さんが刺身をよそってくれた。
これは……ブリかな? それと、もう一つは……なんだろう。白身なのかな。でも赤い線が入ってる。
「これはガンド。で、こっちはノドグロ」伯母さんが指を差して教えてくれた。どちらも聞いたことがない名前だ。
「ガンドはブリの若い奴や」と、伯母さん。「東京じゃなんていうか知らんけど。ノドグロは白身やけど、脂が乗ってて旨いげんよ。焼いても煮ても旨い魚や」
「へぇ……それじゃ、いただきます」
まずは、ガンドから……うん。確かにブリだ。でも、あんまり脂っぽい感じがないけど、これはこれでおいしい。そして、ノドグロ……おお、これも旨い! なんだろう、脂が強いけど全然しつこくない。噛むとどんどん旨味が出てくるような……
「おいしいです!」俺が思わずニコニコ顔でそう言うと、
「「「ほうやろ?」」」俺以外の三人の声がそろった。
「ほんなら、これも食べてみまっし!」そう言って伯母さんがよそってくれたのは……尻尾がついてて皮が剥かれた……エビ? だけど、なんか尻尾も身もちょっと黒ずんでて、あんまりおいしくなさそうなんだけど……
「これはな、ガスエビって言うんや」伯母さんがニヤリとする。「見た目はちょっと悪いけどな、味はアマエビにだって負けん。うんまいよ~」
そう言われると、食べなければならない気になってくる。ええい、覚悟を決めるか。
「い、いただきます」
頬張った瞬間。
甘っ!
なにこれ! 下手すりゃアマエビよりも甘くないか? しかも身がプリっとしてて、噛むとそれがはじけて旨味が……ジュワ―っと……
やばい! めっちゃおいしい!
「どうや、おいしいやろ?」伯母さんが文字通りドヤ顔になる。
「ええ!」俺は満面の笑顔でうなずいた。
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こんな感じで、俺は能登の新鮮な海産物を堪能した。黒もずくの酢の物も、ザクザクした歯ごたえですごく旨かったし、ナマコの酢の物も、ナマコの外見から、ちょっと遠慮したいなあ、と思ってたけど、食べてみたらコリコリしてて意外においしかった。でも、やっぱり海の幸はどれも真冬が旬らしい。
すっかり満腹になった俺は、ヤスの部屋でスマホを見ながら休憩していた。そうか……ガスエビって、気体のガスと関係ないんだ……よく取れるけどすぐにダメになるから「カスなエビ」ってことでカスエビが訛ってガスエビになったんだ。いやでも味は全然カスじゃないと思うけどなあ。
と、部屋がノックされた。
「カズ兄ぃ、そろそろ時間やよ」シオリだった。時計を見ると、19:50 になっている。
「分かった。行こうか」
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