能登の秋、人命救助の秋

1

 "また、例の現象が起きたよ"


 待ちに待った、シオリからのLINEが届いたのは、本日十月八日の夕方のことだった。俺は早速通話モードにして彼女に電話をかける。


 シオリはすぐに呼び出しに応じた。


「もしもし」


『カズ兄ぃ、久しぶり』


 少し湿り気を帯びた、シオリの声。


「さっそくだけど……間違いないんだろうな?」


『間違いないと思う。でもね……今回は八幡神社じゃないげん』


「え? だったら、どこで起きたんだよ?」


西宮にしみや神社ねんて。港に近い神社。あの時と同じで、夜、灯りが漏れとった』


「お前……良く気づいたな」


『ウチもね、あれから八幡神社はちょくちょく見とってん。だけどいつも何も起こらんしぃ、こらぁダメかな、と思ってんて。ほやけどぉンね、昨日西宮神社の恵比須山祭りやってんて。ウチ、祭りは見に行かんかってんけどぉ、なんか胸騒ぎがして……祭りの後、夜に西宮神社行ってみたら……案の定やわいね』


「何で夏の時と場所が変わったんだ?」


『そんなんウチにも分からんわいね。けどぉ、西宮神社ってぇンね、八幡神社と合祀されとるみたいでぇ、祀っとるがんは同じ神様になるげんね。でも元々西宮神社は恵比須さんを祀っとったらしくて、恵比須堂とも言われとれんけど』


「なるほど」


 ってことは、パソコンのOSの、ファイルに対するショートカットみたいなもんか。結局本体は一緒、ってことだな。


『ほやけどぉ……なんか、偶然とは思えん。この前の時もそうやったしぃ……やっぱウチ……呼ばれとるんかな?』


 シオリが今感じているだろう漠然とした不安が、低いトーン、小さいボリューム、はっきりしない口調となって彼女の声にまとわりついていた。


「そうかもしれないな。シオリ……恐いか?」


『そんなことないよ。ウチなんも恐くない。カズ兄ぃが一緒にいてくれれんたら、ね』


「それは大丈夫だ。ヤツに会うときは、もちろん俺も一緒だ。お前が呼ばれてる、っていうんなら、それはむしろ望むところだよ」


『良かった。ほんならカズ兄ぃ、また来てくれれんね』


「ああ。だけど、俺ももう大学始まってるからな。まあ、平日でも行けないことはないが……」


『ウチだって学校あっさかいね。ほやけどぉンね、今週の十二日の土曜日ってぇンね、カズ兄ぃもお休みやろ?』


「まあな」


『その日、恵比須祭りがあるげん』


「……ちょっと待て。それ、昨日終わったんじゃないのか?」


『違ごげん。それは恵比須山祭りや。ちっちゃいけど一台山車だしも出るげん。でも十二日の恵比須祭りは山車も出んし、お宮さんの中だけでやる、さらに小じんまりとした祭りや』


 なんか、紛らわしいなあ。


『ほんでぇンね……ウチ……どうもその前日に……何か、起こりそうな気がするんやって……』


「……」


 そう言えば、あの出来事が起こったのも石崎奉燈いっさきほうとう祭の前日だった……「謎の存在」は、自称「神」なので、何か神事があると出現確率も高くなる……ということなのかも……


 そして、神職の血を引くシオリには、どうも「謎の存在」とコンタクトできる独自の能力が備わっているようだ。その彼女がわざわざ十月十二日という日付を挙げた、ということは……その前日にヤツとコンタクトできる可能性も、高いってことだろう。


 そう。俺はどうしても、「謎の存在」にもう一度会いたかった。


 本当に俺たちのせいで、過去に爆弾を送ったことになり、石崎の大火につながったのかを確かめたかったのだ。それで、俺はシオリに、またヤツにコンタクトが取れそうな現象が起こったら教えてくれ、と頼んでおいた。そしてとうとうそれが起こった、ということなのだ。


「分かった。それじゃ、十月十一日の金曜日に行くよ」


『やった!』シオリの声が嬉しそうに弾む。『ウチ、楽しみに待っとるからね。カズ兄ぃ、またウチの家に泊まれんろ?』


「え、泊まっても……いいのか?」


『いいに決まっとるわいね! おんもおんも大歓迎やわいね!』


「そ、そう……そんじゃ、お言葉に甘えることに……するかな……」


 うーん。


 だけど俺……シオリと同じ屋根の下で……理性が保てるだろうか……


 あやまちを犯しそうな……でも、伯父さんも伯母さんも、むしろそれを願ってるようなフシも見受けられるんだよな……


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