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夕食を済ませ、午後八時になると、俺は玄関から出た。遠くで笛と太鼓の祭り囃子が聞こえる。今日はJRの駅前で
「……お前、どうしたの、その格好」
なんと、彼女は巫女装束に身を包んでいたのである。
「どう? かわいいやろ?」シオリは一瞬ドヤ顔になるが、すぐに真顔に戻る。「神社やし、これなら神様のご加護があるかなと思ってさ、ネットで
なるほど。彼女なりに考えた結果なのか。
「そうか。ま、悪くはないんじゃね?」
「えへへ。ありがと」
そして俺たちは出発した。隣に並ぶシオリの距離が、昨日に比べてやけに近いのは……気のせい……じゃないよな……
そんな甘酸っぱい雰囲気が、神社に着いた途端に一変する。
「マジかよ……」
彼女の言ったとおり、扉の隙間から白い光が漏れていたのだ。
「カズ兄ぃにも、見える?」
明らかに怯えた顔で、シオリが言う。
「ああ……見える」
俺は扉に近づいてみる。確かに、何か低い音が断続的に聞こえる。雷?爆発音?
いや……この音は、聞いたことがあるぞ……まさか!
反射的に、俺は扉を開く。驚いたことに鍵はかかっていなかった。そして……
「!」
目に突き刺さるような痛みが走る。あまりの眩しさに両目の瞳孔が悲鳴を上げたのだ。
ようやく目が慣れる。周りを見渡すと、そこは真っ昼間の草原だった。俺はその中に足を踏み入れる。
「ちょっ、カズ兄ぃ!」
シオリの声を無視して、俺はそのまま歩いて行く。
湿った土。曇り空。振り返ると、木造の古い小屋がそこにあった。その扉からシオリが心配そうな顔をのぞかせていた。
「待ってま、カズ兄ぃ!」
シオリも意を決したように、俺を追いかけてくる。その時だった。
凄まじい轟音がして、上空数百メートルを二機の航空機が瞬く間に飛び去っていく。
思った通り、例の音はジェットエンジンの排気音だった。それも、今は珍しいターボジェットエンジンの。しかし、その機体のシルエットを見た瞬間、俺は愕然とする。
「嘘だろ……」
「カズ兄ぃ、あの飛行機は?」
いつの間にかシオリが俺の真後ろに立っていた。胸の先端が俺の背中に当たっているようだが、それを気にしている場合じゃない。
「サンダーチーフ、だ……」
リパブリックF-105サンダーチーフ。間違いない。主翼と胴体の付け根の前の部分が切り欠きのように開いているのがこの機体の特徴だ。しかし、F-105は1960年代に活躍した機体で、現役のものなど今はどこにも存在しない。
さらにもう一機、轟音と黒いスモークを排気ノズルから吐き出して、上反角のついた主翼の大柄な機体が飛んでいく。マクドネル・ダグラスF-4ファントムII。日本では未だに現役だが、今俺の真上を飛んでいる機体は、空自のF-4EJよりも明らかに機首が短い。米海軍のF-4Jだ。しかし、現役のF-4Jも今は一機もないはずだった。
そして。
ジェットエンジンとは全く異なる、パタパタという音が聞こえてきた。ベルUH-1イロコイ。米軍の汎用ヘリコプター。こちらに向かってくる。
まずい。
「シオリ、戻るぞ!」
俺はシオリの手を握り、小屋に向かって走り出した。
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