3

 翌日。


 朝食後、シオリは夏期講習があるとかで、すぐ学校に出かけていった。昨日迎えに来た彼女が制服だった理由がそれで判明した。


 俺はと言えば、伯母さんに畑仕事の手伝いを頼まれ、さんざんこき使われて汗だくになり、ようやくヤスの部屋に戻って扇風機を全開にしてグッタリしているところだった。


「……」


 俺は昨日のシオリの「相談」の内容を思い返す。奇妙な話だった。


 三日前。


 入院したばかりの伯父さんの世話に勤しんでいたシオリが気づくと、既に夜の七時を回っていた。慌てて帰宅する途中、家の近くの八幡神社で、彼女は信じられないものを見た。


 正面の扉の隙間から、明るい光が漏れていたのだ。室内の照明ではない証拠に、扉の両脇の窓は真っ暗なままなのである。


 思わず近づいてみると、何かドンドンという低い音が聞こえる。怖くなった彼女は走って家に帰ったという。


 しかし、それ以来。


 夕方から夜になると、彼女はどうにも嫌な予感がするのだった。何か恐ろしいことが起こりそうな気がしてならない。


 失恋のショックで自分はおかしくなってしまったのか、とも思ったが、本当にそうなのか確かめたい。しかし一人で神社に行くのは怖い。だからついてきて欲しい……


 というのが彼女の「相談」だった。SF好きの俺は興味が涌いたので快諾すると、彼女は安堵した顔になり、言った。


 "それじゃ、明日の八時。約束やよ"


「ただいまぁ」


 俺の回想は、帰ってきたシオリの声で中断される。夏期講習は午前中で終わり。昼飯を食べたら、午後は彼女の車で、のとじま水族館に行くことになっていた。リア充イベント第2弾。俺は能登島には行ったことがないので結構楽しみだった。


―――


 シオリとの水族館デートも楽しかった。のとじま水族館の名物「のと海遊回廊」は、水槽の中を通る透明なトンネルで、そこはまるで海の中にいるようだった。天井にあるプロジェクションマッピングが雰囲気をさらに盛り上げている。イルカショーも素晴らしかった。


 帰り道、運転席のシオリが思いつめたような顔で、


「ね、カズ兄ぃ……カズ兄ぃはさ、彼女おるがんけ?」


 と、思い切りストレートに聞いてくるものだから、俺も少し面食らってしまい、


「い、いや……いない……けど」


 と、どもりながら答えると、彼女は、


「『けど』……なに? 彼女じゃなくても、誰か好きな人とかおるんけ?」


 と言いながら泣きそうな顔になる。


「いや、そういう人もいない。今はな」


「え……じゃ、前はいたの?」


「まあ、な。片思いだったけど、告る前にもう彼氏がいるのがわかってさ。玉砕」


「ほうねんや……それはつらいね。でも、カズ兄ぃならいつか彼女できると思うよ」


 ……口調のわりに、シオリの顔がなんか少し嬉しそうに見えるのは、気のせいだろうか……


―――


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る