乙女の帰還(10)

ニューメニティ充填じゅうてん拳は、にゅうめんマンの体に宿るおびただしいニューメニティを敵の体内に強制的に注入し、相手をニューメニティ漬けにする奥義だ。本人の言うとおり、管長を更生させるために特別に開発した技であり、他にはあまり使い道がない。


「ぬわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 技を受けた管長の体は、電気ショックを受けているかのように激しく痙攣けいれんし、黄金色に光り輝き始めた。


30秒ほども技をかけてから、にゅうめんマンはようやく管長の体に当てていた手を離した。強烈な技の効果によって管長は、壮齢のゴリラの往復ビンタをくらって打ちのめされた子供のようにぐったりとして、しばらくは身じろぎもしなかった。しかしやがて、様子を見守るにゅうめんマンの前で管長はむっくりと体を起こし、朝目が覚めたばかりのような表情でにゅうめんマンの顔を見た。にゅうめんマンは言った。


「行くがいい。自分のすべきことは分かっているはずだ」

 ニューメニティ充填じゅうてん拳を受けた人間は、寝ても覚めてもにゅうめんのことしか考えられなくなり、世界ににゅうめんを普及して、そのすばらしさを全人類に思い知らせたくなる。国民がにゅうめんを食べることを禁じた例の法律などは、すぐにでも廃止したくなるはずだった。――管長はにゅうめんマンの言葉に無言でうなずき、ゆっくり立ち上がり、階段を下りて屋上を去った。


それを見届けると、にゅうめんマンは三輪さんに歩み寄って声をかけた。三輪さんはもう床に倒れてはおらず、同じ場所に静かに立っていた。目の横あたりを殴られたらしくあざができている。

「大丈夫ですか。さっきはひどく殴られたようですが」

「……」

 三輪さんは答えなかった。管長の部下である立場上仕方がないのかもしれない。にゅうめんマンは、三輪さんの怪我の状態を見るために

「失礼します」

 と言ってマスクを外そうとした。三輪さんはあえてそれを妨げなかったが、いずれにしてもマスクは外れなかった。

「あれ。外れない。どうなってるんだ」


「これは管長以外の者には外せない。私も含めて」

 ここで三輪さんが口をきいた。

「なぜですか」

「管長の霊力によって外れない仕組みになっているんだ」

「霊力でそんなことができるんですか。器用なもんだな」


マスクを外させるため、にゅうめんマンは管長の後を追って急いで階段を下り、どこかへ向かって廊下を歩いていた管長を捕まえ、迷惑そうな顔をする管長を引き連れてすぐに屋上へ戻って来た。

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