乙女の帰還(9)

『いずれにしても、死ぬときくらいは、シャカムニの教えに従って心安らかに死にたいものだ』

 敵に殴られている最中にこんなことを考えるのもおかしいが、にゅうめんマンはそんなことを思った。

『俺がここで息絶えても、多分三輪さんは生き残るだろう。それでよしとしようじゃないか』


すると、にゅうめんマンの胸を満たしていた負の感情がうそのように引いていき、管長の策略と特殊能力によって逆上し、混乱していたにゅうめんマンの精神は、平常の状態を取り戻した。今なら思い通りに体も動かせそうな気がした。


だが、ここで管長はにゅうめんマンにとどめを刺そうと考え、体を丸めるようにして屋上に床の倒れているにゅうめんマンの首を、さっきやったのと同じように両手で絞めつけた。


しかし、今度はにゅうめんマンもやられっぱなしではなかった。さっきは人質がいたので首を絞められても抵抗しなかったが、今は状況が違う。三輪さんは管長に殴られて少し離れた所に倒れており、もはや人質にとられてはいない。にゅうめんマンは、後ろから首を絞め上げる管長の両手を自分の両手でぐっとつかみ、自慢の怪力で首から引きはがした。思ったとおり体のコントロールは回復していて、普段どおり手を動かして力を込めることができた。


管長は、相手の行動を妨害する自分の能力が通用しなくなったことに動揺した。にゅうめんマンはさっと立ち上がって敵の脇腹にジャブをぶち込み、よろめく管長の土手っ腹に一発、形勢逆転の回し蹴りをぶち込んだ。


強烈なキックをもらった管長はその場にぶっ倒れた。ところが、まだわずかな余力があったらしく再び立ち上がろうとしたので、にゅうめんマンは管長の頭をはたいて容赦なく張り倒した。管長はもはや勝ち目がなくなったことを悟り、存外あっさり観念した。


「残念だが、人質まで利用しても、私は君にかなわなかったようだ。――私をこのまま放っておくつもりはないとさっき君は言っていたが、どうするつもりだ。君を抹殺しようとした私は、反対に君に殺されてしまうのか。……しかし、自分のした事を考えれば仕方がないのかもしれないな」

「放っておくつもりはないが、命を奪ったりはしないさ。いやしくも俺はシャカムニの使者だからな」


にゅうめんマンは、あおむけに倒れている管長の胸に手を当てた。

「何をする気だ」

「とっておきの技を見せてやる。お前みたいな悪党を更生させるために最近特別に開発した技だ」

 にゅうめんマンは手のひらに意識を集中した。

「受けるがいい!究極奥義 ニューメニティ充填じゅうてん拳!!!」

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