乙女の帰還(6)
「管長!」
そばで戦いを見ていたホーネットが管長に駆け寄った。ホーネットはその場にしゃがみ込み、地面に倒れている管長の状態を確認した。幸い意識もあり、深刻な怪我はなさそうだった。ホーネットは再び立ち上がってにゅうめんマンに言った。
「今日はこれで勘弁してもらえないか」
「ダメだ。この男をこのまま放っておくわけにはいかない」
「――ならば仕方がない。私が相手だ」
ホーネットは腰に提げていた伸縮警棒を手にとって伸ばし、にゅうめんマンと戦うために身構えた。
「待て」
倒れたまま管長がホーネットを呼び止めた。
「お前ではこの男に勝てない。この間はたまたま勝てたのかもしれないが、実力が一段違う」
「ですが、他にどうすれば……」
多分相手の方が強いことはホーネットにも分かっていた。だが、管長がやられるのを見過ごすわけにはいかない。
管長は重々しい動きで立ち上がりホーネットの方へ歩み寄った。そして何を思ったのか、ホーネットが常にかぶっている仮面を顔から外して見せた。その素顔を見て、にゅうめんマンは仰天した。
「三輪さん!」
それは紛れもなく懐かしい三輪さんの顔だった。顔色が悪く、もとから色白の顔が青白いくらい白くなっているが、以前と同じで美しかった。管長の霊力がこもった仮面の機能により、にゅうめんマンはこれまでホーネットの正体が分からずにいたのだが、ここではじめてそれを知った。なお、管長はこの仮面を通じてホーネットを支配しており、管長でなければ仮面は外せない。
突然、ホーネットと三輪さんが同一人物であることが分かって、にゅうめんマンは衝撃を受け、同時に混乱した。まったくわけが分からない。
「これはどういうことだ。なぜ三輪さんが六地蔵の副管長を?」
にゅうめんマンは尋ねたが、自分が三輪さん本人に尋ねているのか、管長に尋ねているのかもよく分からなかった。ともかく、それに答えたのは管長だった。
「いきさつは問題ではない。今は、この人物が三輪素子であるということが、君に分かればいいんだ」
「それは分かったけど……」
管長は仮面をつけ直し、ホーネットに言った。
「優秀な部下にこんな事をするのは少々気が引けるが、お前には私の人質になってもらう」
管長は片腕でホーネットの体を拘束し、もう片方の手で手刀を構えて首に突きつけた。
「管長。何を……」
「今言ったとおりだ。お前には人質になってもらう。私はここでやられるわけにはいかないのでな」
それから管長はにゅうめんマンに命令した。
「人質の命が惜しければ、後ろを向き、両手を上げてその場に動かず立て」
「汚いぞ管長。またしても三輪さんを人質にとるのか」
「私の言葉が聞こえないのか!言うとおりにしないと人質を今すぐに殺す」
「この野郎……」
他にどうすることもできず、にゅうめんマンは指示に従った。管長はホーネットの体を抱えたまま、後ろ向きに立つにゅうめんマンに注意深く歩み寄り、後頭部を殴って地面に打ち倒した。それから、倒れたにゅうめんマンを窒息させるため、しゃがみ込んで両手で首を絞めた。
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