乙女の帰還(7)
ホーネットの心はほとんど暗黒面にとらわれていたが、それでも、かつての心が少しだけ残っていた。以前自分が誘拐されたとき、にゅうめんマンが命がけで助けてくれたことを、ホーネットは思い出した。そして今もここで、自分を助けるために、にゅうめんマンは殺されようとしている。――普段は考えないこんな事をホーネットが考えたのは、ひょっとすると、一時的に仮面を外された影響もあったのかもしれない。
ホーネットは、にゅうめんマンの首を絞める管長に言った。
「管長。やりすぎです。死んでしまいます」
だが管長は無視した。殺すためにやっているのだからそんなことを言われても仕方がない。
「管長!」
ホーネットは管長の手をにゅうめんマンの首から引きはがそうとしたが、腕力の違いが大きくてできなかった。それで、なかば衝動的に管長の頭を殴った。その結果、管長はにゅうめんマンの体から手を離し、にゅうめんマンは激しく空気を吸い込んで窒息をまぬがれた。
「私に反抗するのか!」
怒った管長はホーネットの頭を殴り飛ばし、ホーネットは屋上の床にぐったりと倒れた。首を絞める手から解放されたばかりで苦しそうに息をしていたにゅうめんマンもその様子を見ていて、三輪さんが無残に殴り倒されたのに驚いた。どうにか呼吸が整うと、にゅうめんマンはすぐに倒れた三輪さんの所へ駆けつけ、意識があることが分かったので一応安心したが、三輪さんをこんなふうに傷つけたことに対する強い怒りが胸にこみ上げて来て、管長をにらみつけた。
「何てことをするんだ」
にゅうめんマンがそう言うと、相手を見下すように管長は答えた。
「何をそんなに興奮しているんだ。女1人殴ったくらいで」
「慌てるのが当たり前だ。自分が何をしたか分かっているのか」
「分かっているさ。自分の部下が逆らったから少しばかり灸を据えてやったんだ。上司に手を上げるようなくだらん人間は、そのまま死んでしまえばちょうどよかったのだがな」
「何だと!もう一遍言ってみろ!」
怒りに駆られて、にゅうめんマンは管長に襲いかかろうとした。だが、そのとき妙なことが起こった。胸のうちの怒りの感情が突然猛烈に増幅し、制御できないほどになって、精神の働きをむちゃくちゃにかき乱すような、それまで体験したことのない感覚に襲われたのだ。
心が乱れるだけならよかったのかもしれないが、ここで危機的だったのは、そのせいで体まで思うように動かなくなってしまったことだ。にゅうめんマンの動きはみるみる失速し、弱っているはずの管長から、反対にボディーブローをもらってしまった。その攻撃には何とかたえたものの、どういうわけか正常な身のこなしができなくなったにゅうめんマンは、身構え直すのがやっとだった。
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