乙女の帰還(5)

管長の蹴りは素早くはあったが、とっさに放ったもので威力はそれほどでもなく、にゅうめんマンは腕を上げてブロックすることができた。


「思った以上の実力だな。君の強さはよく分かった。だが、間延びした勝負は嫌いだから、次の一撃で一気に勝負をつけたい。本気でいかせてもらうぞ」

 そう言うと、管長は必殺の一撃を放つために霊力を高め始めた。

「はぁぁぁぁーーーっ!」

 濃度を増した暗黒のオーラが、暗紫色の炎のように管長の体から吹き出した。


これを見たにゅうめんマンも、来たるべき敵の攻撃に対応できるようニューメニティを極限まで高めた。

「ぬおおおおおぉぉぉぉあああああぁぁぁぁぁーーーー!!」


管長の放つ暗黒のオーラと、にゅうめんマンの黄金色のニューメニティがぶつかり合い、混じり合って、一帯を満たした。それはあたかも、濃口しょう油で作った東日本のどす黒い麺つゆと、薄口しょう油で作った関西風の色の淡い麺つゆが、火花を散らして触れ合うような、言語に絶する光景だった。


「管長パァァァァァーーーンチ!!」

 十分に霊力を高めた管長は、猛烈な威力、スピードのパンチを繰り出した。その勢いはあまりに強く、さしものにゅうめんマンにも受け切れないかと思われた。だが、にゅうめんマンはそれを正面から危なげなく受け止めてみせた。


本気の攻撃をあっさり受け止められて管長は困惑した。何かがおかしかった。確かに攻撃は当たったのに手応えが不自然だったのだ。――次の瞬間、管長はその理由に気が付いた。

「それは……!」


にゅうめんマンは、どこからかとっさに取り出した乾麺の束を緩衝材にして、管長の攻撃を受け止めたのだ。麺は粉々になったが、にゅうめんマンにはほとんどダメージがなかった。先日の戦いで多麻林がひやむぎの麺を攻撃に利用したとき、「食べ物を粗末にするな!」と言って顔面に鉄拳制裁をお見舞いしたことを、にゅうめんマンはちらっと思い出したが、あまり深く考えないことにした。

「これで分かっただろう。お前がいくら努力したって、にゅうめんにはかなわない。はじめから勝敗の見えている戦いだったんだ」


にゅうめんマンは反撃に転じ、マシンガンのような連続パンチを管長に浴びせた。

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!」

 管長は両腕を体の前に構えて、必死でこれを受け止めたが、ほとんど動きが見えないほどの高速のパンチを100発以上も打ち込まれて、とうとうガードが緩んだ。


「もらった!」

 ここぞとばかりに、にゅうめんマンは強烈な一撃を管長の胸に叩き込んだ。

「ぐふぅっ」

 管長はなす術もなくノックアウトした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る