9章 にゅうめんマン最大の敵
にゅうめんマン最大の敵(1)
何日かたって、ホーネットと戦ったときの傷が回復したので、にゅうめんマンは改めて宗教法人六地蔵の本部へ抗議に行くことにした。
自宅で極上のにゅうめんを食べて腹を満たし、全身に金泥(きんでい)で「にゅうめん」の文字が斜め向きに書かれたスピードスケーター風の黒いスーツを着、それとそろいの柄の黒い覆面をかぶり、冬用のジャケットを羽織って、にゅうめんマンは意気揚々と出発した。
* * *
六地蔵の敷地の正門までやって来たにゅうめんマンは、関係者のふりをしてカジュアルに門を通り過ぎようとしたが、もはや顔見知りになった警備員がそれを呼び止めた。
「お前はにゅうめんマン!この間騒ぎを起こしたばかりだというのに、厚かましくもまたやって来たのか」
「厚かましいのは、国民がにゅうめんを食べることを禁止したお前たちの方だ。何なら1日に2回くらいのペースで抗議に来たいぐらいだ」
「頼むからそんな迷惑なことを考えないでくれ……」
「それじゃあ1日1回で我慢するから、ここを通してくれないか」
「そういうわけにもいかない。またお前を中へ入れて問題が起こったら、俺は警備員をクビになるかもしれん」
「ならば俺としても本意ではないが、力ずくで入るしかないな」
にゅうめんマンがそう言うと警備員は余裕の笑みを浮かべた。
「ふっふっふ……そんな簡単に中へ入れると思うな。お前が強いことは知っているが、こちらにもそれに負けない戦力があるのだからな」
「まさか、またあの副管長を出すつもりか。あの人容赦がないし、この間くらったボディアッパーがトラウマ級に痛かったから、できればもう戦いたくないけど、お前がどうしても呼ぶというなら、俺も仕方がないから戦うぞ!」
「いや。ホーネット副管長はお前と戦って以来お疲れで、今はなるべく派手な活動を控えておいでだ。その代わり、にゅうめんマンが現れたら別の人物を呼ぶようにと言われている。その人物が、六地蔵の活動をじゃまするお前にきついお灸(きゅう)をすえてくれるだろう」
「お灸ねえ……」
あまり感心していないにゅうめんマンにかまわず、警備員は急いで、門の脇の詰め所にいる同僚に頼んだ。
「にゅうめんマンが来た。至急、多麻林を呼んでくれ」
「よしきた」
無視して先に進んでもよかったが、にゅうめんマンは律儀にも、その人物が現れるのをその場で待った。幸い、ほとんど待つ必要もないくらい、すぐに多麻林はやって来た。坊主頭でオレンジ色の袈裟(けさ)を身につけ、いかにも坊主っぽい格好だ。六地蔵の僧侶はもう頭を丸める必要はないはずなので、髪は自主的にそっているのだろう。中肉中背でまあまあハンサムな坊主だった。
だが細かな風貌(ふうぼう)はこの際重要ではない。多麻林と呼ばれたこの男、実際にただ者ではなかったのだ。多麻林の体からは通常の人間にはありえない膨大なオーラがあふれ出ていた。それは、にゅうめんマンの全身を満たす特殊なエネルギー「ニューメニティ」に似ていた。
「久しぶりだな。にゅうめんマン」
門の所までやって来た多麻林は正面からにゅうめんマンを見すえた。その目には激しい憎しみが宿っていた。
でも、にゅうめんマンはこんな坊主にはまったく見覚えがなかったし、そんなことよりも、多麻林の放つオーラが何なのかを考えずにはいられなかった。
《何だ。この男の体からあふれ出る、とてつもないエネルギーは。ニューメニティか?……いや。何かがおかしい。ニューメニティに限りなく似ているが、決定的に何かが――》
にゅうめんマンは未知の事態に直面して必死に考えた。すると、その様子を見て取った多麻林が言った。
「俺の持つエネルギーのことが気になるのか」
「ああ。ニューメニティと似ているが、何かがおかしいようだ――」
「これはニューメニティなどではない。『ヒアムギティ』だ」
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