にゅうめん乱用防止キャンペーン(13)

「でも、それじゃあ、そもそもなんでにゅうめんマンと戦ったんですか。途中でライブをやめてしまったら、お客さんたちも納得しないのではないでしょうか」

 別のスタッフがホーネットに言った。

「こんな大騒ぎがあったのにライブも何もない。あの激しい戦いの後でまだ私に働けというのか」

「それは……」

「お前たちは言われたとおりにすればいいんだ。管長には私から話しておく」

「分かりました」


スタッフに簡単な指示を出すと、ホーネットはにゅうめんマンをほったらかしてホールを出て行った。それからスタッフたちは、不測の事態によるイベントの中止をアナウンスしたり、観客たちに指示を出して外へ誘導したり、苦情に対応したりして、てんてこ舞いになった。みんな大忙しで、床に座り込んでいるにゅうめんマンの存在など眼中にないようだった。


にゅうめんマンは、ホーネットのファンに混じって出口から外へ出るのはやめた方がいいと判断し、ステージの上に残って観客たちがはけるのを待っていた。その時、観客の中の物好きな男が1人、にゅうめんマンに歩み寄って話しかけた。


「強いな、あんた!ライブが中止になったのは参ったけど」

「楽しんでいるのを邪魔したのは悪かったけど、正義のためにはやむを得なかった。ともかく、みんなが1日も早くにゅうめんを食べられるように努力するから、待っていてくれ!!」

「お、おう……まあがんばってくれや」


   *   *   *


後のことをスタッフに任せて講堂(音楽ホール)を出たホーネットは、敷地の本館にある自分の部屋へまっすぐ帰って来た。そして、シフォン生地の服を着たまま、事務机のいすに腰を下ろした。もちろんこの部屋には自分1人しかいないし、他の部屋からもほとんど物音は聞こえない。先ほどまでの騒ぎがうそのように静かだった。2色に輝く金属の仮面の裏で、ホーネットの目から一筋の涙が流れた。


《不思議だ。なぜ涙が出るのだろう》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る