にゅうめん乱用防止キャンペーン(9)

《何だ今のは》

 正体不明の衝撃にさらされて、今度はにゅうめんマンがひるむ番だった。だが戦っている最中に気を抜いてはならない。ホーネットは、にゅうめんマンが当惑している一瞬の隙に間合いを詰め、目にも止まらぬ警棒の一撃を放った。すんでのところで、にゅうめんマンは後ろに身を引いたが、ホーネットの振り下ろす警棒の先が腕をかすった。服のそでが破れ、新しくできた傷口から小さく血が流れた。


だが、傷のことなど気にかけている余裕はない。次の瞬間にはもう、ホーネットはにゅうめんマンの方へ飛びかかって新たな攻撃を仕かけた。幸いにゅうめんマンはこれを完全にかわすことができたが、ホーネットは、相手に息をつくいとまも与えない猛烈な連続攻撃を浴びせた。


敵の攻撃がしゃれにならないほど激しいので、いっそ観客たちの中に逃げ込もうかとにゅうめんマンは考えたが、その時また1つのアイデアが頭に浮かんだ。それで客席に逃げるのはやめて、ステージの床に落ちていたマイクを再び拾い上げた。さっきと同じ手は通用しないだろう。もちろん、それは分かっている。にゅうめんマンは敵の攻撃を避けつつ、折を見て、今度はそのマイクをホーネットに投げつけた。


敵もさる者で、ホーネットは素早く警棒を振るい、投げつけられたマイクを眼の前で打ち落とした。だがそれも、にゅうめんマンの想定の内だったのだ。逃げ回るふりをして、自分が先ほど脱ぎ捨てたジャケットの間近に位置取っていたにゅうめんマンは、それをさっと拾い上げ、マイクを打ち落とした直後のホーネットの意表をつき、相手の顔を目がけて投げつけた。ホーネットはこのジャケットも警棒ではたき落としたが、一瞬視界がさえぎられた。にゅうめんマンはその隙に、電光石火の早業で敵に接近して足払いをかけた。


ホーネットは足払いをかわせず木製の床の上に転倒した。転んだ敵の手が床に触れるやいなや、にゅうめんマンは、ホーネットが握る警棒を、靴をはいた足で蹴飛ばした。警棒はホーネットの手を離れて舞台上を横の方へ滑って行ったので、にゅうめんマンは抜かりなくそれを追いかけ、ついに敵の得物を奪い取った。


「やったぞ!」

 とっさに考えた作戦が見事成功し、にゅうめんマンの意気は高まった。だが世の中はいつも思い通りにはいかない。ホーネットから武器を取り上げた手際は見事だったが、にゅうめんマンの想定外だったのは、ホーネットが予備の警棒を衣服の下に隠し持っていたことだ。何ともおもしろくない用心の良さである。

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