にゅうめんマン、悪の教団に乗り込む(9)

その坊主が地面に倒れているのを、そばを通りかかった知り合い坊主が見つけ、心配して声をかけた。

「どうしたんだ。大丈夫か」

「おお、珍念か。実は、今そこで暴れている不法侵入者をやっつけたら副管長がほおにキスしてくれることになっていたんだが、残念ながらやられちまって、このざまさ」

 悔しそうに坊主は言った。

「副管長って、この間就任した、あの美人の副官長か!」

「そうだ。今階段の上に立ってるはずだ」

「なんてことだ。すぐに話の真偽を確かめなければ」


珍念と呼ばれた仲間の坊主は階段の上にいたホーネットにその話を確かめた。ホーネットはにゅうめんマンをやっつけたらほおにキスすることを保証した。

「よっしゃあ!もらったあああ!!」

 他の誰かに先を越されてはならないと、珍念は猛烈な勢いで駆け出した。

《自分で約束しておいてなんだが、仏教徒がこんな煩悩まみれでいいのだろうか……》

 ホーネットは思った。


こうして、珍念もにゅうめんマンとの乱闘に参戦した。

「どけどけ、お前ら!にゅうめんマンの相手はこの俺だ」

 他の坊主たちに向かって珍念は荒々しく叫んだ。

「どうしたんだ。えらいやる気じゃないか」

「あたぼうよ。にゅうめんマンをやっつけたら副管長がキスしてくれるんだからな」

「なんだって!そしたら、もし俺がにゅうめんマンを倒したら、あのマスクド美人な副管長がキスしてくれるのか」

「そうだ」

「とんでもないことを聞いちまった。お前にゃ悪いが、その報酬は俺がいただくぜ」


その話はまたたく間に施設中に広まり、坊主たち(と警備員などの他の関係者)の士気は上がりに上がった。宗教法人六地蔵の設立以来、坊主たちがこんなにやる気を出したことがあっただろうか。いや、ない。その結果、すでに大勢の相手と戦っていたにゅうめんマンは、さらに多くの坊主たちの襲撃を受けることになった。


「ふん!」

 ある力自慢の坊主は、にゅうめんマン目がけて強烈な右ストレートを繰り出した。だが、にゅうめんマンはすっと横によけて、お返しのデコピンを敵の額にお見舞いした。にゅうめんマンの怪力が放つデコピンは、デコピンとは思えないほどの破壊力があり、これを受けた坊主は悶絶した。


「でやぁっ!」

 元気のいい別の坊主は正面から飛び蹴りを打ち込んだ。しかし、にゅうめんマンはその足を片手でつかんで軽々と敵を投げ飛ばした。地面に落下した坊主はもう立ち上がれなかった。


また別の坊主たちは、多人数でにゅうめんマンを取り囲み、輪を狭めるようにして同時ににゅうめんマンに攻撃を仕掛けた。にゅうめんマンは輪の内側からショルダーチャージを仕掛け、敵の1人を突き飛ばして包囲を突破した。残りの者たちには、木立の間を流れる風のような目にも止まらぬ早業で1人ずつ拳を打ち込み、あっという間にその集団を平らげた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る