にゅうめんマン、悪の教団に乗り込む(3)

三輪さんの研究所に着いたにゅうめんマンは、まず事務所で受け付けを済まして学生室へ向かった。しばらく前まで自分もここの学生だったのに、受け付けが必要だとは邪魔くさい。


念のためドアをノックしてから学生室の扉を開けると、相変わらず殺風景というか、どことなく貧乏くさい光景が目に入った。三輪さんのような高尚な人物が長い時間を過ごす場所としては今一もの足りない。本音を言えば彫刻の1つや2つは飾っておいてもらいたいところだ。


かつて自分が使っていた机を見ると、知っている男子学生が座っていた。桜井鶴彦(ヒーローに生まれ変わる前のにゅうめんマンの名前)が死んでから席替えをしたらしい。部屋には他にも数人の学生がいたが残念ながら三輪さんはいないようだ。にゅうめんマンはとりあえずこの男に声をかけた。

「すみません。1つお尋ねしてもいいですか」

「はい。何でしょうか」

「ここの学生の三輪素子さんは今も変わらず通学なさっていますか」

「失礼ですが、三輪さんとはどのようなご関係ですか」

「今はただの知り合いですが、これから深い関係に発展する予定です」

「はあ」

「その、深い関係に発展する予定である三輪さんと、5日ばかり前から連絡がとれなくなって心配しているんです。安否が確認できれば十分なんですが」

 少しうそが混じっているがかまわないだろう。

「なるほど……」

 と男は答えた。

「こんなことを外部の方に話していいかどうか分かりませんが、実は、三輪さんは5日ほど前からうちにも姿を現さないんです」

 この男、実に口が軽いのである。それが分かっていたから、にゅうめんマンは声をかけたのだ。

「姿を現さないっていうのは、まったく連絡も取れないんですか」

 にゅうめんマンは尋ねた。

「そうです。完全に音信不通です。大事な用事がある日も来なかったし、失踪したと言っていいでしょうね」

「失踪……」

 穏やかならぬ響きだ。

「ええ」

「分かりました。ありがとうございます」


にゅうめんマンは他の学生にも同じことを尋ねたが、やはり三輪さんは数日前から音信不通だということだった。


それから部屋を出ようとしたときに、何となく懐かしくなって、かつて自分が使っていた机にもう一度目をやると、前年に自分がくっつけた、にゅうめんをデフォルメしたデザインの缶バッジが、机の側面にくっついたままになっているのを見つけた。

「いい缶バッジですね」

 にゅうめんマンは例の学生に言った。

「ええ。僕ではなくて、去年この机を使っていた別の学生がつけたものなんですけどね」

「さぞかし優れた人だったんでしょうね」

「なに。割とパッパラパーで、どうってことはない人でしたよ」

「そんなはずはないと思うんだが……」


   *   *   *


それから教員や事務員にも尋ねたが、三輪さんがどこで何をしているのか誰も知らず、突然失踪したということで皆の意見は一致していた。担当教員の話によると、三輪さんの家族も三輪さんに連絡がつかないそうだ。


聞き込みを終えて研究所を出たにゅうめんマンは三輪さんのアパートにも立ち寄ったが、やはり留守だった。不安な気持ちを抱えて、にゅうめんマンは家へ帰った。

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