にゅうめんマン、悪の教団に乗り込む(2)
「あなた、顔にタオルを巻いて一体何をしてるの!」
看護婦のおばちゃんに大きな声で言われて、にゅうめんマンはうろたえた。
「これはその……俺、人に顔を見られるのが恥ずかしくてたえられないんです」
「タオルを顔に巻きつけて病室をうろうろしてる方がずっと恥ずかしいでしょ。そんな遊び、今まで見たことないよ」
「別に遊んでるわけじゃないんだけど……」
そこでおばちゃん看護婦は、長らく昏睡状態の患者が寝ていたベッドが空になっていることに気付いた。
「あなた、もしかしてそのベッドに寝ていた患者さん?」
「ええ」
「元気になったのね!よかった。正直言ってもうダメじゃないかと思ってたけど、何回駆除しても生えて来るうちの庭の雑草並みの生命力だわ」
「もうちょっと気のきいたたとえ方がないもんですかねえ……」
それはともかく、せっかく病院の職員と話す機会を得たので、にゅうめんマンは分からないことをたずねてみた。
「ところで今日は何日ですか」
「10月20日だよ」
「10月20日!本当に?」
「本当だよ」
「それじゃあ俺はここで1か月も眠っていたんですか」
「そうだよ」
「これまで、どれだけがんばっても16時間しか続けて眠れなかったのに。道理で体がなまってると思った。――それで、ひょっとしたら入院中に三輪という女の人が見舞いに来てくれていたりしませんでしたか」
「その人なら、少し前まで毎日欠かさずお見舞いに来てたよ。あんなかわいい娘を心配させるなんて、タオルを顔に巻きつけて遊んでる変人にしちゃあ、あんたも隅に置けないよ」
「これは遊びでなく、俺は真剣にタオルを顔に巻きつけているんです」
「どっちでもいいよ」
「ともかく『少し前まで』ってことは、最近は来ていないんですか」
「うん。5日前くらいから来ていないね」
これはちょっと気になるが、少なくとも数日前までは毎日ここに来ていたということだから、多分三輪さんは無事だろう。にゅうめんマンはひとまず安心した。
その後、口に出すのも辛くなる面倒くさい手続きを済まして退院を許され、一月ぶりに、野原の松の林の陰の控えめな自宅へ帰った。
* * *
家へ帰ったにゅうめんマンは真っ先に三輪さんへ電話をかけたが通じなかった。それから、とりあえずにゅうめんを食べ、その後で一風呂浴びた。風呂上がりにロイヤルミルクティーを淹れようと思ったが、面倒くさくなったので、居間の畳に座って、やむなく水道水で一服した。そこでにゅうめんマンが考えたのはやはり三輪さんのことだ。考えすぎかもしれないが、数日前から病院へ来なくなったことや、電話が通じないことが、どうにも気になって仕方がなかった。
「よし。行くか」
にゅうめんマンは水道水を飲み干して立ち上がり、服を着替え、トレードマークの覆面をかぶって、三輪さんの安否を確かめるため、病み上がりの体で再び家を出た。日が暮れるまで、まだしばらく時間がある。まずは三輪さんが通う海辺の研究所を訪ねるつもりだ。
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