にゅうめんマン、悪の教団に乗り込む(4)
帰宅したにゅうめんマンは、三輪さんのことを考えると心配が募(つの)っていても立ってもいられなくなり、不安を紛らすために動物園のパンダのごとく畳の上ゴロゴロしていたところ、部屋の隅の黒電話が大きな音を立てた。にゅうめんマンは受話器を取った。
「私だ」
電話の相手が言った。無論シャカムニだ。この電話にかけて来るのはシャカムニしかいない。今のところ、悩ましい声のお姉さんが夜中に電話をかけて来るとかそういうことは起こっていないので、今後に期待だ。
「こんばんは。シャカムニさま」
にゅうめんマンは返事をした。
「ようやく通じた。何度電話をかけても通じないので心配していたのだ」
シャカムニは言った。
「何度も電話をくださったのですか」
「毎日かけていた。地上の弟子たちに聞いても何も分からないと言うし、1か月も音信不通で、一体何があったのか」
「実はですね――」
にゅうめんマンは自分の身に起こった事件をシャカムニに説明した。
「それは大変だったな」
説明を聞き終えたシャカムニは言った。
「ともかく、命が無事で何よりだ。他の人間に顔を見られたことについては今回に限り不問とする。特に、顔見知りである三輪素子に見られたのは望ましいことではないが、不可抗力だったのだし、命がけで市民を助けたのに罰を受けるのでは気の毒すぎるのでな」
「ありがとうございます」
とりあえず、人間界を追放されずに済んだので、にゅうめんマンはほっとした。だが、それよりも大きな問題が残っている。
「シャカムニさま。実はまだ気がかりな事があるのです」
にゅうめんマンは言った。
「何かな」
「三輪さんが数日前に突然失踪して、家族や同じ研究所の人たちを含めて、誰にも行方が分からないようなのです」
「そうなのか。それは確かに気がかりだ」
「ええ。僕は心配で心配で夜も眠れなくて……」
「意識を取り戻してから、まだ一晩も過ごしていないはずでは」
「言葉のあやです」
「そうか」
「宗教法人六地蔵がからんでいるに違いないと思うのですが、シャカムニさまは何か心あたりがありませんか」
「申し訳ないが、私には人間界の様子はあまり分からないし、三輪素子のことも見当がつかない」
シャカムニなら三輪さんのことについて何か分かるかもしれないと思ったが、人間界のことはあまり細かく把握していないようだ。残念だが仕方がない。
「分かりました。ともかく、明日直接六地蔵の本部へ行ってみようと思います」
「気を付けるのだぞ」
「はい」
「ところで、そのことに関してもう1つお聞きしたいことがあるのですが」
にゅうめんマンは再びシャカムニに尋ねた。
「何を聞きたいのか」
「シャカムニさまは六地蔵のことをある程度ご存知のようですが、奴らがにゅうめんを奪った目的も実はお分かりなのではありませんか」
「そうだな……」
シャカムニが返答をためらう様子が電話越しに伝わって来た。
「教えていただけないでしょうか。ひょっとすると三輪さんの失踪とも関係があるかもしれません」
「あのな……」
「はい」
「恥ずかしいから、あまり人に話したくないのだが」
シャカムニが情けないことを言うので、にゅうめんマンは不意を突かれた。
「悟りを開いた仏陀(ぶっだ)が、スリーサイズを聞かれた女の子みたいな事を言うのはやめてください。あのにゅうめんを巡って三輪さんが誘拐され、僕も殺されかかったのですよ」
「私はスリーサイズを教えることは一向にかまわないが」
「そんな事を聞いて誰が得をするのですか。まじめにやってください!六地蔵がなぜにゅうめんを狙ったのか教えてください」
にゅうめんマンが熱心に尋ねるのでシャカムニは折れた。
「……仕方があるまい。そこまで言うなら話そう。六地蔵の管長が私のにゅうめんを求めた理由を。それにまつわる危険性も含めてな」
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