6章 乙女の転機!
乙女の転機!(1)
三輪さんがすぐに助けを呼んだおかげで、にゅうめんマンは適切な治療を受けることができ、一応死を免れた。しかしながら、それ以降数日間ずっと昏睡状態にあり、いつ死んでもおかしくない危険な状況だった。
「先生。回復のきざしはありますか」
意識不明のにゅうめんマンが寝かされている病室で、三輪さんは担当医師にたずねた。
「残念ながら今のところは。あれほどの大怪我を負って生きているだけでも信じられないくらいです。きっと人並み外れて体の丈夫な方なんでしょう」
「では、今すぐにとはいかなくても、今後よくなる見込みはありそうですか」
「そうですね。お友達にこんなことを言うのは心苦しいですが、この患者が回復する見込みは、ししとうを10本食べて1回も辛いやつに当たらないのと同じくらいとしか……」
「先生。大事な話なのでもっと分かりやすく説明していただけませんか」
「これは失礼。医学的な知識がないと少々分かりにくかったかもしれません」
《大丈夫かな、この医者……》
2人の話はすぐに終わって医者は病室を出て行った。そこで、三輪さんは改めて昏睡状態のにゅうめんマンの顔を見た。――事件のあった日以来、学校を休んでずっとにゅうめんマンにつき添っているが、いまだに驚きをおさえられない。覆面を取ったにゅうめんマンの顔は、三輪さんの元同級生、桜井鶴彦にぞっとするほどよく似ていた。だが、鶴彦はしばらく前ににゅうめんの食べすぎが原因で死に、三輪さんは葬式に出て線香まで上げたのだから、にゅうめんマンと鶴彦は同一人物ではあり得ない。
《それにしても、にゅうめんマンが好物であるところまで同じだし、とても別人とは思えない》
生前、鶴彦のにゅうめん好きはよく知られていた。鶴彦と言えばにゅうめん、にゅうめんと言えば鶴彦だった。桜井鶴彦が消費したにゅうめんの長さを足し合わせると地球を一周できるとか、鶴彦の死によって製麺業界の売上が落ち、複数の会社が倒産に追い込まれたなどという、まことしやかな噂もささやかれていた。
それはともかく、2人があまりに似ているので、ひょっとしたら双子の兄弟じゃないかと三輪さんは疑って念のために確認をとったが、やはり鶴彦にそんな兄弟はいないことが分かった。鶴彦に酷似した人物が危篤状態にあることを鶴彦の家族に報告することも考えたが、遺族の感情を考慮して結局報告しなかった。最終的に三輪さんは他人の空似なのだと考えることにした。他にどう解釈できるだろうか。
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