乙女の転機!(2)
一方、にゅうめんマンと刺し違えた宗教法人六地蔵の管長の予後は、にゅうめんマンよりもよかった。傷が深かったのでしばらく寝た切りになったが、数週間ですっかり回復してそれまでどおり動けるようになった。
実を言うと、大変な怪我を負ったにもかかわらず、療養中から管長の心は軽かった。ついに、自分の悲願を叶えてくれるかもしれない、シャカムニ特製にゅうめんが手に入ったからだ。もとより管長はその野望の実現に人生をかけており、そのためなら命を危険にさらすのも望むところだった。宗教法人六地蔵を運営し大規模な組織に成長させたのも、すべてはそれに必要な資金や人材を集めるためだ。
そしてついに、その膨大な努力が報われる日が来たのだ。怪我が治ったばかりの管長が部屋で仕事をしていると、誰かがが重々しい木製の扉をノックした。
「研究所の古卦骨孤です。管長にご報告したいことがございます」
「入ってくれ」
扉を開けて静かに部屋へ入って来たのは30代くらいの研究員だった。その姿を見た瞬間、管長は報告の内容を悟った。
「完成したのか」
管長はたずねた。
「ええ。この間手に入れたにゅうめんのおかげで、ようやく研究が完成しました。これがその成果です」
研究員はポケットから小さな袋を取り出して管長に手渡した。管長はその中に入っていた錠剤を手の平の上に取り出し、感慨深げにそれを眺めた。しばらく前に羽沙林が作った薬は残念ながら副作用を示すだけの失敗だったが、これは紛れもない本物だ。
「難しい研究を完成させてくれたこと、礼を言うぞ。私にとって今日ほど嬉しい日はない」
「ありがとうございます」
「この薬はそのまま普通に飲めばいいのか」
「はい。かまずに水で流し込んでください」
「分かった。後で1人で飲みたいから下がってもらえるか」
「はい」
管長が大いに満足しているのを見て、研究員も満足そうに部屋を出て行った。
再び1人になった管長は再び感無量の思いで錠剤を眺めた。そして、しばらくそうやってからついにそれを口へ放り込み、机に置いてあった飲みかけの茶で胃へ流し込んだ。すると、数分もたたないうちに管長の身に異変が起こった。
「むむ……きた…………きたぞ…………きた……きた、きた、きた、きたぁぁぁーーっ!!!」
何ということだろう。見渡す限り砂しかない死の砂漠に突如草木が芽ぐみ、豊かな森が生じるように――あるいは、永久凍土に閉ざされ木々の生育を拒んで来た極寒の地が、数万年ぶりに氷河期を脱し、多様な生き物を育む広大な森林となるように――つるつるだった管長の不毛の頭に、にょきにょきと髪の毛が生えて来たのだ。
世の中には2種類の坊主がいる。仏の道を求めて頭を丸めた者と、ハゲをごまかすために頭を丸めた者だ。管長は後者だった。
(著者の生活がいまだかつてなく忙しくなり、4月末まで続きを書く時間がとれそうにないので、次の更新は恐らくそれ以降になります m(_ _)m )
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