乙女のピンチ!(2)

そうやって2人で果てしない水の広がりを見ていると、にゅうめんマンの頭に、三輪さんと共に過ごした学生時代の思い出がよみがえった。


あれは、他の学生の手伝いで調査船に乗り、研究室のみんなで海に潜って魚を採集したときのことだ。着て来た服とウエットスーツを着替えるとき、にゅうめんマンは初めて三輪さんの水着姿を見たのだった。南国の花の絵をあしらった水色のワンピースだった。残念なのは、それが三輪さんの水着を見る最後の機会となったことだ。もっと長く生き延びて学生を続けていれば、再びそういうチャンスもあったかもしれないのに、若くして死んでしまったことが悔やまれる。それを考えると三輪さんは何と幸せな人だろう。鏡さえあれば、いつでも心行くまで自分の水着姿を見ることができるのだから……。


「何を考えているんですか」

 静かに海を見つめるにゅうめんマンに三輪さんがたずねた。

「正義の味方として世界平和に貢献する方法を考えていました」

「壮大なことを考えていますね。いつもそんなことを?」

「そのとおりです。人類の幸せが僕の幸せです」


だが幸福な時間は長く続かない。1台の白いバンが浜沿いの道路にやって来たかと思うと、そのバンはそばに適当なスペースを見つけて駐車し、中からオレンジ色の袈裟(けさ)を着た5人の僧侶が出て来た。そして、まっすぐにゅうめんマンたちの方を目がけて歩いて来た。そのうち4人は頭を丸めた坊主だが1人は茶髪の尼だ。前に会ったときとはまったく違う服を着ているものの、チャームポイントのつり目を見れば、その尼が誰かはすぐに分かった。


「平群(へぐり)じゃないか。この間はよくもだましたな」

 相手が声の届く距離まで来ると、にゅうめんマンは尼に言った。

「平群は偽名だ。私のことは宗教法人六地蔵の『卦六臂』と呼んでもらおう」

「どうしてここが分かった」

「あんたが毎朝ここへ来ていることは調べたらすぐに分かったよ」

「そうか。まあいい。それで今日は謝りにでも来たのか」

「謝るもんか。正義の味方のくせに油断する方が悪いんだ。こちらこそあんたに言いたいことがある」

「何じゃい」

「あんたのせいで、うちの研究所長だった羽沙林師匠はすっかり衰弱して、健康上の理由により任期途中で辞任することになった。どうしてくれる」

「政治家みたいに言うな。俺は相手が襲って来たから正当防衛しただけだし、そもそも羽沙林が健康を損なったのは自分たちが作った変な薬のせいじゃないか。こっちこそ、あの理科系坊主に亀裂骨折させられて、健康保険とお金がない状態で病院へ行ったら『体で払え』とか言われて、患者なのに病院でアルバイトさせられるし、とんでもない迷惑だ」

「ふふん。そんな生意気を言っていられるのも今のうちだ。私たち『六地蔵ファイブ』があんたの相手をするために、こうして直々にやって来たのだから」

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