5章 乙女のピンチ!

乙女のピンチ!(1)

「♪……今日もまた誰っか〜……」

 にゅうめんマンは歌を口ずさみつつ朝の海辺でゴミ拾いをしていた。正義の味方として他にやることがないときは、こうしてボランティア活動をしていたりする。羽沙林にやられた腕は、幸い、というべきかどうかは分からないが、骨にひびが入っただけで折れたりはしておらず、にゅうめんマンの持つ高度な治癒力によってすぐに回復した。


だが、三輪素子さんの姿が見えないので、この日のゴミ拾いはイマイチ盛り上がりにかけた(歌ってるけど)。そもそもにゅうめんマンがここでゴミを拾い始めたのは、三輪さんに会えるのを期待してのことだ。かつて人間の学生だったときに同級生だったにゅうめんマンは、三輪さんが朝この浜で散歩するのを日課にしていることを知っていたのだ。


と思ったら、白い大きな帽子をかぶった三輪さんが遠くからやって来るのを見つけて、にゅうめんマンは嬉しくなった。いそいそと三輪さんの方へ歩いて行って声をかけた。

「今日は来ないかと思いましたよ。三輪さんだっていろいろあるだろうし、毎朝ここで散歩する義理もありませんけどね」

「今日は、朝起きてからぼんやり考えごとをしていたら、いつもより家を出るのが遅くなりました」

「どんなことを考えていたんですか、って聞いたら失礼でしょうか」

「かまいませんよ。研究で少しうまくいかないことがあるんです」

 三輪さんは海辺の研究所に通う大学院生だ。

「三輪さんみたいな優秀な人も物事がうまくいかなくて悩むことがあるんですねえ」

 にゅうめんマンは言った。

「そりゃあ私だって悩みくらいいくつでもありますよ」

「そうなんですね。何だか親近感が湧くなあ。三輪さんにも『研究がうまくいかない』とか『人間関係がうまくいかない』とか『インターネットで連載小説を公開してるけど、ほとんど毎日アクセスがゼロだから、ひょっとしてこれ全然面白くないんじゃないかと思って自分でも読み返してみたら、あんまりしょうもないから恥ずかしくなって、いっそ全部削除した方がいいんじゃないかと思うんだけど、途中まで書いちゃったし、続きを待ってる人は1人もいないかもしれないけど、絶対いないとも言い切れないから、やめるにやめられない。どうしよう』みたいな悩みがあるんだと思うと」

「最後のやつは私にはちょっと分かりませんが……」

「すでに知っているかもしれませんけど1ついいことを教えましょう。――悩み事なんかがあるときは、海を眺めると心が落ち着くんですよ」

 そう言うと、にゅうめんマンは海の方を向いて砂浜に腰を下ろし、自分の隣をポンポンたたいて三輪さんも座るように促した。三輪さんはにゅうめんマンの横にそっと腰を下ろした。

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