にゅうめんマン vs 悪の教団幹部(8)
「あほか。中年坊主としりとりなんかして何が楽しいんだ。ワギャンランドじゃないんだから」
「いいのかな?そんなことを言って」
根子丹は床に倒れたままでにやりと笑った。実に気味が悪い。
「何を企んでいるのか知らないが、俺はしりとりなんかしないぞ」
「そちらが勝ったら、1杯3千円の超高級にゅうめんをおごってもらえるとしても?」
「超高級にゅうめんだと……」
「ほしいだろう?名前どおり、にゅうめんが大好物みたいだからな」
根子丹の申し出はにゅうめんマンの心に大きな揺さぶりをかけた。にゅうめんマンは眉間(みけん)にしわを寄せ、明らかな葛藤(かっとう)の色を浮かべた。
「……見そこなうな。俺だって正義の味方の端くれだ。悪の組織のほどこしは受けない」
にゅうめんマンはそう言って提案をこばんだ。
「ふふふ。見上げた心がけだな。だがよく聞け。この超高級にゅうめん屋はVIPだけが予約できる紹介制だ。ここのにゅうめんは、一般人がいくら金を払ってもを食べることができない幻の味だぞ。にゅうめん好きなら、話くらいは聞いたことがあるんじゃないか」
「……」
実を言うと、にゅうめんマンは家へ帰れば、シャカムニ特性の極上のにゅうめんをいくらでも食べることができる。だが、にゅうめんマンの胸には、この世に存在するさまざまなにゅうめんを味わってみたいという情熱が、常に赤々と燃えているのである。
その心につけ入るべく根子丹はかけ引きを推し進めた。
「もちろん、俺だってにゅうめんを一杯で相手が釣れるとは考えていないさ」
「どういうことだ」
「超高級にゅうめん、1年間食べ放題だ」
「!?」
「今日から1年、その店で好きなだけにゅうめんを頼んでいい。俺たちには潤沢(じゅんたく)な資金がある。男1人に毎日にゅうめんをおごるくらい何でもない」
根子丹はやおら床から起き上がって、抗しがたい誘惑の言葉をにゅうめんマンに投げかけた。そして、自分の言葉の効き目を確かめるために相手の様子をうかがった。
「……負けたよ。お前には」
とうとうにゅうめんマンは、たくみに人の心をあやつる根子丹の策略に屈した。
「しりとりで勝負することに同意するんだな?」
「ああ。その代わり、俺が勝ったら、超高級にゅうめん1年間食べ放題の約束をちゃんと守ってもらうぞ」
「もちろんだ。ただしこちらが勝ったら、俺と一緒に宗教法人六地蔵の本部へ来てもらうからな」
「いいだろう」
「シャカムニ(仏陀)にかけて誓うか」
「誓う。そちらも誓うか」
「誓うとも」
こうして、市役所職員と坊主たちがかたずを呑んで見守る中、両者の命運をかけたしりとり対決が始まった。
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