にゅうめんマン vs 悪の教団幹部(9)

自分の番になったら5分以内に答えないと負けというルールで、しりとりは根子丹から始まった。

「俺からいくぞ『しりとり』」

「えーと……り、り、離島」

「ウニ」

「に……にゅうめ……はっ、いかん!」

 にゅうめんマンは早くも負けそうになったが、ぎりぎりのところで踏みとどまった。


《危ないところだった……》

 冷や汗をかいたものの、にゅうめんマンは気を取り直して

「庭」

 と言い直した。

「『わ』だな。ワニ」

「に……にゅうめ……ダメだ、ダメだ!俺ってやつは、同じパターンで負けそうになるなんて。俺の答えは『ニンニク』だ」

「ニンニクね。……口紅」

「にゅう……ニューヨーク」

「くぎ煮」

「に……にゅう……入学式」

「北国」

「に……にゅ……にゅう……」


《何てこった。「に」ばっかり来やがる》

 そこで、にゅうめんマンはハッと気が付いて根子丹の顔を見た。するとそこには、悪魔的な笑みが浮かんでいたのである。

「言いたいんだろう。あの言葉が。世界で一番おいしい、あの食べ物の名前が」

 にゅうめんマンの心を見透かすかのように根子丹は言った。すべては巧妙に仕組まれた罠だったのだ。

「汚いぞ根子丹」

「何が汚いもんか。俺はルールにのっとってしりとりをしているだけだ。さあ、お前の番だぞ。早く答えろ」

「にゅう……ニュース」

「スベスベマンジュウガニ」

「何がスベスベだ。ばかにしやがって」

「正義の味方が負けおしみか。情けないね」

 根子丹は相変わらず邪悪な微笑を浮かべている。

「さっさと吐いちまって楽になれよ。あのめん類の名前を」

「刑事ドラマみたいなこと言ったって俺は負けないからな。――にしきごい」

「イリエワニ」

「に……にゅ……にゅう……ううぅ……」


   *   *   *


そんな調子で2人の戦いはしばらく続いたが、長く続くほど、言いたいことの言えないにゅうめんマンの精神は衰弱していった。

「……にゅう……にゅう……入荷日」

「ビタミンB12」

「にゅ……入港」

「ウンベルト・ボッチョーニ」

「誰だよそれは。聞いたことがないぞ」

「20世紀に活躍したイタリアの画家だ」

「実在したんだろうな」

「もちろんだ。ごちゃごちゃ言わずにさっさと答えたらどうだ」

「こんちくしょう。……にゅう……にゅう……にゅうめ……」

「にゅうめ……?」

「……ニューメキシコ州」

「ちっ。しぶといな。――うち死に」

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