にゅうめんマン vs 悪の教団幹部(2)

「手ごたえはあるか」

 パワーの注入を終えた管長は根子丹にたずねた。

「はい。大きな力が体にみなぎるのを感じます」

「本当に強くなったかどうか試してみようじゃないか。軽率ににゅうめんマンとやらに挑んで負けてしまったのでは、ばかばかしいからな」

 管長は机の電話から受話器を取り上げてどこかへ内線をかけた。

「もしもし。私だ。今から道着に着替えて中庭へ来てもらえるか。……よし。それではまた後でな」

 受話器を置くと、管長は根子丹の方へ向き直った。

「道着を貸すから根子丹もそれに着替えてくれ」


   *   *   *


サッカーのコートほどもある広い中庭では、いく人かの坊主が木陰で瞑想したり、経典を読んだり、ハンドスピナーを回したりしていたが、人は少なくて静かだった。そこで管長と根子丹を待っていたのは、道着を着た筋骨隆々の大男だ。

「おう。守衛長じゃないか。調子はどうだ?」

 根子丹は大男の守衛長に挨拶した。2人は仕事でしょっちゅう顔を合わす仲だ。

「おかげさまで好調です。しかし、根子丹さんが道着を着ているなんてめずらしい。運動でもするんですか」

「いいや。これからお前と一勝負してもらうんだ。組み打ちの勝負をな」

 根子丹に代わって管長が答えた。

「根子丹さんと戦うんですか」

 むきむきマッチョの守衛長と比べると根子丹はいかにもひ弱で、そこらへんを歩いているおっさんと戦っても勝てるかどうか怪しい。むしろ負けるだろう。守衛長が戸惑うのも無理はなかった。

「まあだまされたと思って手合わせしてみてくれ。相手が目上だからって気を使う必要はないぞ」

「はぁ」

 守衛長はなおも釈然(しゃくぜん)としない様子だったが、管長に促されて道着姿の根子丹と向かい合って立ち、その場でお互いに一礼した。


「ファイッ!」

 管長が試合開始の合図をすると、守衛長は根子丹に歩み寄って遠慮がちにパンチを繰り出した。根子丹はやすやすとこれを受け止めた。それで、今度はそこそこ強めのパンチを打ち込んだが、これも簡単に受け止められてしまった。根子丹の高度な身のこなしに守衛長は驚きを隠さなかった。


「気を使う必要はないと言われただろ。もっとがんがん攻めて来い」

 根子丹は言った。守衛長は相手の胸を目がけてするどい打撃を放ったが、根子丹はひらりと飛びのいてかわした。守衛長はとうとう本気になり、すばやく距離をつめて続けざまにパンチを打ち込んだ。しかし根子丹はすべて片手で受け止め、お返しに相手の腹に強力な掌底を見舞った。なす術もなくこれを受けた巨体は芝生の上にどっと倒れた。眉間にしわを寄せてうなっている守衛長に起き上がる気力はなさそうだった。


「勝負あったな」

 管長が言った。

「すばらしいパワーじゃないか。どうだ根子丹。感想は?」

「今からオリンピックを目指します」

「目指さんでいい」

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