にゅうめんマン vs 悪の教団幹部(3)

「しかし本当にすごい力ですね。こんな力を手に入れて、私はこれからの生活が楽しみですよ!」

 根子丹は言った。

「いや。にゅうめんマンを捕まえたらその力は私に返せよ」

「え……返すの……?」

「もちろん。借りたものは返すのが当たり前だ」

 根子丹は宝くじを20枚買って全部外れたサラリーマンのような顔をした。よほど残念だったらしい。

「やる気がなくなったので今日はもう帰っていいですか」

「まだ昼の2時だが?」

 管長がちょっと恐い顔をしたので根子丹は早退を断念した。


「だけど管長はいいですねえ。こんなすごい力があれば何だってできるでしょう」

「そう思うか」

 いつも何事にも動じない管長の顔に、かすかな悲しみの色が浮かんだ。

「違うんですか」

「そんな簡単に何でもできたら苦労しないさ」

 それはそうかもしれない。管長がしゃかりきになってこの組織を運営しているのにも何わけがあるに違いないのだ。

「1つお聞きしていいですか」

「何かな」

「うちの研究所では一体何をしているんですか」

 根子丹は重役なのでこの組織のことはほとんど把握している。ただ、管長が大金を注ぎ込んでいるらしい組織の「研究所」で何が行われているのかは、ごく限られた人間、恐らく管長と研究所のスタッフしか知らない。根子丹に分かっているのは、信者たちから集めた資金の相当部分がこの研究所に使われていて、多分それは組織の根本的な存在理由に関わっているということだ。

「それは話せない。ただ、何よりも大切なことだとだけ言っておく」

 管長は答えた。

「承知しました。余計なことをお聞きして失礼しました」

「今は、例の『にゅうめんマン』を捕まえることに集中してくれ」

「はい」


   *   *   *


次の朝、根子丹は弟子の坊主たち20人ばかりを引き連れて、前日にゅうめんマンが現れた街、揉上市へやって来た。ここでもう一度騒ぎを起こしてにゅうめんマンをおびき出すのが狙いだ。どこで騒いでもいいのだが、差し当たって、騒ぎが拡散しやすそうな市役所へ行くことにした。役所なら、運がよければにゅうめんマンに関する情報も得られるかもしれない。


市役所に到着した根子丹は入り口のそばの受付窓口のおばさんに言った。

「話がある」

「どのようなご要件でしょうか」

「ある男を探しているんだ」

「それですと担当の窓口が異なりますね」

「窓口なんざどうでもいい。言うとおりにしないとためにならんぞ」

「ためもカメもありません。当市役所といたしましては、担当の窓口へ行っていただかないと対応できません」

「細かいなあ。どの窓口へ行ったらいいんだ」

「市民相談室へお願いします」


   *   *   *


根子丹と弟子たちは市民相談室へ行って窓口のおばさんに言った。

「話がある」

「どのようなご要件でしょうか」

「ある男を探しているんだ」

「それですと担当の窓口が異なりますね」

「窓口が異なるだって?さっき別の窓口で同じことを言ったら『市民相談室へお願いします』と言われたぞ」

 根子丹は怒りを込めて迫真の声まねをした。

「他の窓口が何と言っても、市民相談室では人探しはうけたまわっておりません」

「黙れ。おとなしく言うとおりにしないとためにならんぞ」

「ためもマメもありません。当市役所といたしましては、担当の窓口へ行っていただかないと対応できません」

「何だよもう。言われたとおりにしたのに。次はどの窓口へ行ったらいいんだ」

「総務部へお願いします」


   *   *   *


根子丹と弟子たちは総務部へ行って窓口のおばさんに言った。

「話がある」

「どのようなご要件でしょうか」

「ある男を探しているんだ」

「それですと担当……」

「こらっ!」

「わっ!」

「何回同じことを言うつもりだ!」

「何のことですか」

「どうせ担当の窓口が違うとか言うんだろ。ここへ来てから2回もそう言われたぞ」

「違いますよ。『担当は総務部の総務室です』と申し上げようとしたんです。総務部が担当で間違いありませんが、ここは総務部の総合窓口ですから」

「総務部には違いないんだからここで話を聞いてくれ」

「当市役所といたしましては、担当の窓口へ行っていただたないと対応できません」

《結局それかい》

 と根子丹は思ったが、言い返すのが面倒くさくなって引き下がった。

「それで総務室はどこにあるんだ」

「2つ上の階の西の端です」

「同じ部署だろ!?どうして同じ階にないんだ」

「この階だけではスペースが足りませんで」

「それにしたって2つも上の階になくたっていいじゃないか」

「行政上の事情により、このような配置になっています」

「どういう事情だ。まったく」

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