第2話

池上さんが、少し珍しい願いを見つけた。

『今の幸せがずっと続きますように……?』

「まあ、これ、よっぽど幸せな人が書いたのね」

「でも見てくださいよ。ハテナマークがついてますよ」

「あらほんと、面白い!」

母親の方に目をやると、微笑みながら、願いを書いていた。

「お母さん、なんて書いたの?」

「フフ……、教えない」

「えー、じゃぼくの願い事も教えない」

そこに大きな声が聞こえてきた。

「さー、みなさん体操をはじめましょうー」

そうやって、デイサービスの一日ははじまった。

帰ってくると、もうへとへとだった。

夜ご飯を終え、さっさと布団へもぐる。晴は、その夜眠れなく、七夕の星はでてないか、ベランダに出てみた。すると、まばゆい光が晴を覆い、一瞬目を閉じた。そこには、後光を放った彦星様と織姫様が降りてきた。信じられなかった。織姫様はクスクス笑っている。彦星様が話しかけてきた。

「願いをかなえあげるよ」

願いって。別にそんなのない。なにを言おう。

「今の幸せがずっと続きますように。母も、今と変わらず、ずっとこのままでいられますように!」

晴は、気が付くと口にしていた。織姫様はクスクス笑っている。

「そんなのでいいの?」

晴は、真剣そのものだった。

彦星様が言ってきた。

「わかった。かなえあげるよ」

一瞬、まばゆく光ったと思ったら、織姫様と彦星様は、星に帰っていった。

気が付くと、朝の四時だった。えー、夢だったの?なんだ~。晴は、一人言をいった。

デイサービスの施設には、七夕の飾りが飾ってある。

「あっ、この願い、おもしろいねー。『五億円あたりますように』だって」

口々に、ひとが集まり、皆が書いた願いを見物している。

「まあ、これ誰が書いたのかしら、仲のいいこと」

その願いには、こう書いてあった。

『母の願いがかないますように』

そしてその横には、

『息子の願いがかないますように』

リンリン。

風鈴は、今日も心地よく響いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

風鈴 林 風 @hayashifu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る