風鈴
林 風
第1話
風鈴
晴は、今年の十月で、独身者である。まだ、結婚もしてないし、子供もいない。三年ほど前から、母親の介護生活をしていた。
今日は、週に一回の、母親のデイサービスの日だった。母親を、トイレの終わりにジャージへ着替えさせてから、またベッドに向かわせる。
「今日、デイサービス休ませて」
母親がいった。デイサービスを嫌がってばかりいるのだ。
先週もこんな感じで休ませた。だから、今週は行ってもらわないと困る。そこに、電話がかかってきた。
「こんにちは~。あと二十分くらいでうかがわせてもらいますね」
デイサービスからだった。
どうしよう、あと二十分で来ちゃうよ~。晴は、母親の手を引っ張って、無理やり外へ連れ出した。
外は、雨上がりのすがすがしい光が差していた。
「ほらほら、お母さん。言ってる間にデイサービスの車が迎えに来るからさ!天気もいいし、今日はデイサービス日和だね!」
「晴、着いてきて!」
「えー、またー?」
母親は、倒れてからというもの、人付き合いに臆病になっていた。だから、ことあることに、晴をデイサービスへ一緒に同行させるのだ。
そんなことを言ってる間に、送迎に車がやってきた。
「山本さーん。行きましょうかー」
母親は、晴の手を引っ張る。仕方ない、着いていくことにした。
施設に着くと、晴たちの車は一番乗りだった。どこに座ろうか。池上さんという方の斜め横に座る。池上さんは、人柄もよく、晴たちとは相性が合い、仲のいい間柄だった。
「お母さん、先週は休まれたようだけど、今週は来たわね。えらい、えらい」
池上さんが微笑んで話しかけてきた。
「とんでもない。ほら、見ての通り、またぼくと同行ですよ」
ふと、前に置いてあった平べったい箱に目をやった。箱の中には、見えるように、まだたんざくに飾ってない七夕の願いの書いてる長方形の紙が乱雑に入っていた。
リンリン……
風鈴の音が心地よく響いていた。
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