第2話

 彼女のことを少し話そう。

 彼女の名前は宮島美姫(みやじま みき)。

 実家は診療所を営んでおり、親戚にも医療に携わっている人間が多いそうだ。

 下には2人の妹がいるらしい。

 両親からは医学部への進学を期待されており、将来は診療所を継いでもらいたいと言われているそうだ。

 学校では密かに、彼女の性格は氷のように冷たいと噂されている。


 そんな彼女と僕の唯一の共通点と言えば、放課後に図書室に通うという一点に尽きる。

 その目的は真逆であるが、なぜ図書室なのかという理由については同じ考えで、静かでさらにタダで利用できるからというシンプルな答えだった。


 クラスが違う彼女と僕が初めて言葉を交わしたのも図書室で、その出会いは僕らしくとても間抜けな出会いだった。




 放課後、僕はいつものように図書室に足を運んだ。

 いつものソファーに座り、頭の中で言葉遊びを始めた。

 目の前の景色を単語として型どっていく。

[斜陽][カーテン][オレンジ][チャイム][時計][音][吹奏楽][黒髪][瞳]

「あっ……」

 目が合ってしまった。

 たしか名前は……宮島さんだったかな。

 彼女は僕を一瞥するとすぐに机の上に広げた参考書とノートに視線を落とした。


 心なしか、心拍数が上昇しているような気がした。



 翌日から、僕は彼女を意識し始めてしまう。

 僕は毎日図書室のソファーに座ると、いつも同じ場所で勉強する彼女の存在を視界の端で気にかけていた。


 そんなある日、僕はいつの間にかソファーでうたた寝をしてしまう。その時、僕は手に持っていたノートを床に落としてしまったらしい。

 目が覚めると僕の隣には宮島さんが座っていて、なぜか……寝ていた。しかもその手には僕のノートがにぎられている。

 いったい何がどうなっているんだ……


 状況を理解できず考えを巡らせていると、下校を促す校内放送が入る。

 その音に驚き彼女は目を覚ます。

 目が合うとなんとも言えない空気が流れる。

「お、おはようございます」

 僕はとりあえず挨拶をしてみた。

「あの、おはようございます……」

 挨拶が返ってくると再び妙な空気が流れる。

「とりあえず帰りましょうか。あとそれ、返してもらってもいい?」

 僕は自分のノートを指差す。

 彼女は慌ててノートを僕に差し出した。

「ご、ごめんなさい。勝手に読んでしまったわ」

 恥ずかしいような、嬉しいような、複雑な気持ちだった。

「どうでした? あ、もう図書室出ないとですね……あの、途中まで一緒に帰りません?」

 僕は、彼女が僕の詩をどう思ったのか聞きたくてしかたなかった。

「そうね、そうしましょう。勉強道具とか片付けてくるからちょっと待ってもらえるかしら?」

 僕がコクリと頷くと、彼女は先ほどまで自分が座っていた机へと向かった。

 僕はノートを受け取り、彼女を廊下で待つことにした。


 なんだかとても不思議な気分だ。

 浮足立っているのがわかる。分かっているのに、胸の鼓動を押さえることができなかった。


 初めての感覚に戸惑いつつも、僕の中でワクワクの割合が増していくのを感じていた。

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