ペンとノートの使い方

詩章

第1話

 詩を書くのが好きだった。

 悲しい気持ちも、楽しい気持ちも、文字に起こすことで様々な色を持つ。

 それを僕に教えてくれた人はもうこの世界にはいないけど、日本語の美しさや語感のリズムを楽しむ術を僕はその時知ったのだ。


 僕はいつも小さな手帳を持ち歩いている。それはスケジュールを書き込むカレンダー仕様のものでなく、真っ白な世界が広がる小さくて大きなノートだ。110円で手に入る魔法の書。魔法のステッキはないけれど、僕にはボールペンがある。これまたなんと110円也。


 ノートとペンさえあれば、僕は幸せだった。

 だけど現実は厳しい。

 遊んでばかりはいられないのだ。やっと受験が終わったというのに、またあと2年もすれば大学受験だなんだと忙しくなってしまうのだろう。

 ずっと遊んでばかりいたいな。

 そんなどうしようもないことをずっと思って今まで生きてきた。



 そんな僕だから、彼女は僕に興味を持ったのかもしれない。

 彼女は僕と正反対だったから、僕は彼女に惹かれたのかもしれない。



 医者家系の長女として生まれた彼女はずっと悩んでいた。

 その悩みは、僕が思っているよりも何倍も深刻だったということを知ったのは、大学入試を終えた夜のことだった。


 これは、詩を書くことが好きで楽観的で怠惰な僕と、計画的で勤勉な少女の物語である。

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