第4話 歌を教えます!

 俺の手足がどんどん焦げていく。

 そして目の前では得体の知れない目玉が俺を見つめている。

 何だこのカオスな空間は、俺は異世界の次は地獄に飛んでしまったのか。

 ギョロギョロと目玉が左右に2往復した後、眼球の中心からドロドロとした液体を俺の顔に放出する。

 臭い、苦しい、このままだと死んでしまう。


「や、やめろぉぉ!!」

「ま、マサオ……?」


 周りを見渡す。

 先ほどの地獄の様な空間は消え、自分がリーナの部屋の中にいることを認識する。


「何だ、夢か……」

「大丈夫? 酷くうなされていた様だけど」

「恐ろしい夢だったよ…… 二度とこんな夢は見たくない」


 恐ろしい料理だ。

 食べた人を気絶させるだけでなく幻覚も見せてくるとは。

 今後はリーナに料理をさせぬ様、細心の注意を払わねば。


「さっきの話だけど、アイドルっていうのになるにはまず何から始めればいいの?」

「そうだな…… リーナにはこれから歌ってもらう訳だけど、まず必要なのはリズム感だ」

「り、リズム……?」

「ああ、音楽っていうのは基本的に一定間隔で進んでいくんだ。 ちょっと見ててくれ」


 俺はギターを弾きながら拍子に合わせて足で床を鳴らした。

 リーナはふむふむと頷いた後、俺のギターに合わせて手拍子をする。

 若干のズレはあるが初回にしては上出来だ。


「いいぞ、リーナその調子だ!」

「こういうことね、なんかこのリズムっていうの楽しいのね」

「だろ? 音楽ってのは案外簡単に楽しめるんだ」

「何だか音楽っていうのはそこまで難しいことじゃない気がしてきたわ」

「だろ? でもアイドルをやるにあたって難しいのはここからだぜ、次は歌だ!」


 そう言って俺はギターの伴奏に合わせて歌を入れた。


「さあ、俺の真似をしてみるんだ」

「ま、真似!? いきなり難易度が上がるわね」

「何事も実践するのが一番だろ? 大丈夫、ギターに合わせて声さえ出てればそれはもう歌だ!」

「そ、そうね。 恥ずかしいからマサオはもっと大きな声を出して」

「OK、その意気だ!」


 俺はさっきと同じ曲を弾く。

 最初はリーナは声を出すのを恥じらっていたが、徐々に俺にも聞こえる声で歌い始めた。

 なかなかいい感じじゃないか。


 ん……?


 いやまて、これはいい感じなんてレベルじゃない。

 まるで鼓膜を優しく撫でるような透き通る声、聞いているだけで胸の奥から何かが滲み出してくる。

 少し音階やリズムがずれていたりするが、そんなことは全く気にならない圧倒的な歌唱力だ。

 俺はもしかするととんでもない天才に声をかけてしまったのかもしれない。


「ど、どう……?」

「おめでとう、君は審査に合格さ! 今日から君は僕がプロデュースするアイドルユニットのメンバーだ!!」

「そんな審査受けた記憶ないわよ!」

「冗談はさておき、いい歌声だ。 汚れきった俺の心を浄化してくれるような優しい歌だったぞ!!」

「本当……?」

「ああ、正直踊らなくても歌だけで食っていけそうだ」

「じゃあ踊らなくていいってことね?」

「それはちがぁぁぁぁぁぁぁぁう!!」

「えっ!?」


 突然俺が大声を出したのでリーナはビクッと跳ねる。

 そう、俺は歌姫をプロデュースしたいわけではない。

 あくまでアイドルをプロデュースしたいのだ。

 俺の異世界ハーレムライフの為には、アイドルじゃないといけないのだ。


「歌だけで人々を感動させられるのに踊りも加わったらどうなると思う!? その感動は単なる足し算ではない、掛け算だ!! 踊りが加わることによって少女達の努力、想い、願いが観客に伝わるんだ!!」

「早口すぎて何言ってるか分からないわ」

「要するにだ! 目指すべきはアイドルだ!!」

「よく分からないけど分かったわ」


 リーナはあっさり了承してくれた。

 アイドル系のアニメだとよく勧誘するのに一悶着あるもんだが、これでいいのだろうか。

 とりあえず第一関門は突破だ、ありがたい。

 リーナにはアイドルとして成功する要素がありすぎる。

 この才能を世間にご紹介せずにはいられない。

 ……少し性格があっさりしすぎな部分もあるが。

 それでもこれは確実にいける。


 あとは追加でメンバーを見つけなければ、リーナの横に立っても霞まない、超絶美少女を!


「リーナ、知り合いで美少女はいないか?」

「お店に行けば可愛い子はたくさんいるけど」


 なるほど、リーナ意外にも確かに可愛い子は沢山いた。

 だがリーナ級の美少女っていうのは見なかった気がする。

 別シフトの子に会ってみるか。


「じゃあまた客として行ってみるかな、昨日の路上ライブで金は沢山ある訳だし」

「一回無銭飲食の容疑がかかってるから入れてもらえなさそうだけどね」

「大丈夫、世の中金だ。 この大金を定員に見せればもうイチコロよ」


 昨日俺にデカい態度を取った店員の目に物を見せてやるぜ。


「じゃあ今日の夜な」

「そういえばマサオ家あるの?」

「異世界にはあるがこの世界にはない!!」

「ふーん、じゃあうちに住む?」


 ファ!?!?!?!?!?

 突然のリーナの言葉に、ネット掲示板で見たことある言葉が俺の頭に響く。

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