第5話 一緒に暮らします!

「な、な、な、今何とおっしゃいました!?」

「マサオの話じゃ多分この世界に家ないんでしょ? 私としても専属の家政婦さんみたいなのがいるとまたゴミ屋敷にならなくて済むし」

「自分の家がゴミ屋敷っていう自覚あったんだな…… 身寄りがない俺に帰る家ができるのはありがたい」


 少しカッコをつけて言っているが、家のあるなしなんて正直どうでもいい。

 リーナと同棲というその事実だけが俺のハートをたぎらせている。


「じゃあ決まりね、マサオの部屋はあそこ」


 ん? 部屋?

 リーナの部屋はアパートタイプのワンルームだ、部屋なんてない。

 恐る恐るリーナが指差す方向を見る。

 ベランダ……だと……


「あのーリーナさん? もしかして、もしかしてなんですけど僕をまだ奴隷とお思いで?」

「え、違うの?」

「一瞬奴隷だったけど立て替えてもらったお金は返したし、対等な関係ってのも……」

「そうでした、あんなに過酷な労働をさせたものだから奴隷だと勘違いしていたわ」

「部屋のお掃除はアイドルをやってもらうためにやったんだぞ!」

「じゃあ押し入れにアップグレードしてあげる」


 押し入れで生活なんて、俺が知る限りではドラ◯もんしかしていない。

 でもリーナと同じ空間に住めるっていうならそれもアリだ。

 一緒に生活する上で、ラッキースケベな展開や徐々に恋に落ちていく展開もありえるだろう。


「よし、それでいいだろう!」

「じゃあ、まず自分の生活空間になるであろう押し入れを掃除して」


 そうだ、前回部屋を掃除した時、俺は押し入れの中までは掃除していない。

 どうせまた開けたらゴミが雪崩の様に出てくるとかそんな感じなんだろう。

 そんなことじゃ俺はもう驚かない。


「よし、部屋全体の掃除に比べたら、こんなのちょちょいのちょいよ!」


 俺は勢いよく押し入れを開けた。

 ……あれ何も出てこない。

 何なら何も押し入れには入っていない。

 ただ押し入れの奥に何やら高さ10cmほどの物体があるだけだ。


 ——キノコだっ!!


 きのこの傘の部分は紫色で、青い水玉模様が入っている。

 確実に食べれる多タイプのキノコではない。

 致死性の高い毒キノコの様にしか見えない。


「リーナ、なんかキノコ生えてるんだけど」

「あら本当ね、食べる?」


 これを見て食べるっていう選択肢が生まれちゃうの!?

 もう心配!! この娘の食生活が心配!!


「これは食べれないタイプのキノコだと思うな」

「そうなの? 色鮮やかで美味しそうだけど……」

「食べ物っていうのはあまりに色鮮やかだと毒がある場合が多いんだぞ」

「でもそれはマサオの世界での話でしょ?」

「まあそうだけど…… とりあえず匂いだけ嗅いでみるか」


 キノコに少し顔を近づける。

 何やら綿菓子の様な甘い香りがした後、俺の体が少しづつ軽くなるのを感じた。

 あまりの軽さにこのまま燦々さんさんと輝く太陽に吸い込まれていく様な気がする。

 太陽に吸い込まれていくのを補助するかの様に、空から降ってきた天使が……


 ——って危ない!!

 今昇天しかけていた。


「リーナ、駄目だ。 これは死ぬやつ」

「うーん、可愛いキノコなのに残念ね」


 俺は手を袋で保護した後、その昇天キノコをゴミ袋に突っ込んだ。

 よし、あとは昇天キノコから放出されていた胞子や埃を拭き取るだけだ。


 ——数時間後俺は自らの居住空間を完璧に仕上げた。

 最初水拭きするだけで良いかとも思ったがシミなども目立ったため徹底的に綺麗にした。


「やっと終わりっと……」

「お疲れ様、じゃあ出勤前に私お風呂に入ってくるわね」


 !!!!

 この時を待っていた。

 お風呂上がりの無防備の美少女を見れるなんてこの世界に来て良かった。

 ここはまた、俺のイケボで送り出そう。


「ああ、スッキリしてお……」

「一度綺麗にした押し入れに入ってくれる?」

「あ、はい」


 押し入れに入る。


「じゃあここで待っててね」


 ピシャリと襖が閉まる。

 ふっふっふ、俺が大人しくこんなところで待っているとお思いなのだろうか。

 俺は襖に手をかけ、開けようとする。

 ——開かない!?

 やられた!!

 鍵でもかけられたのだろうか、それとも前に何か物を置かれたのであろうか。

 俺はこれからこの空間に住まわせられるのだろうか。

 この狭く暗い空間で生活したら精神が壊れそうだ。


「開けてくれぇぇ!俺は暗所恐怖症なんだ!!」


 もちろん嘘である。

 俺の声は既にお風呂に入ったであろうリーナの耳には届かなかった。


 1時間ほどそのまま待機したところで、ようやく襖が開いた。


「お待たせ」

「なあ、俺ずっとこの状態で暮らすのか?」

「そのつもりだったけど」

「せめて襖だけは開けといてくれ、流石に精神的にキツい」

「うーん、善処してみるわ」


 ずっとこのままだとしたら、リーナと一緒に住むのは諦めて部屋を借りよう。


「じゃあお店に行ってくる、お店のオープンは1時間後だから、時間になったら鍵閉めて来て」

「分かった」


 リーナから鍵を預かる。

 ああ、これ同棲してる感があってとても良い。

 前言撤回、多少の不満があっても俺はリーナと一緒に暮らす事を選んだ。

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