第2話 音楽を教えます!
俺は期限付きの奴隷になった。
でも何故かそこまで悪い気はしない。
むしろ超絶美少女の奴隷になれるなんてご褒美なんじゃないか?
「マサオ、行くわよ」
「は、はいお嬢様〜〜」
リーナの最初の命令は荷物持ちだった。
荷物といってもハンドバッグ一個だ。
元々持っている機材が重い故、この程度の重さの変化には全く動じることはない。
俺は自分の機材に加えてリーナの荷物を持って店を出る。
「あ、あれ……?」
確か俺は相当な高さの階段を下ってこの店に入ったはずだ。
だが店の扉を開けて目の前に広がる光景は石畳の道路だ。
周りには中世ヨーロッパ風の建物も並んでいる。
さっきまで俺は新宿に居たはず、何かがおかしい。
これはもしや異世界転生ってやつか。
あまりに現実に絶望しすぎて、見かねた神様が俺を異世界に飛ばしたっていうのか。
確かに絶望はしていたが、これは違う。
見知らぬ土地で無一文、これじゃ絶望の二乗だ。
「早くいくわよ」
「はいぃ、すみませんお嬢様」
「そういえばマサオは何でお金ないのにウチの店に来たの?」
「いや、あるんだよ。 あるんだけど異世界の通貨でここじゃ使えないみたいで……」
「異世界? 他の世界から来たっていうの?」
「信じられないかもしれないけどそうなんだ。 自分の世界のお店に入ったつもりが何がどうなったのか、この世界のお店に入ってしまった様で……」
「簡単には信じられないけど、確かにさっきよく分からないことずっと言ってたものね。 バンド?とかライブ?とか」
「そうそう、さっきの様子じゃ"音楽"も分からない?」
「聞いたことないわ」
ここは音楽っていう概念がない世界なのか?
確かにさっきのお店でも音楽は流れてなかった。
普通は何かしらのBGMがかかっているはずだが……
「じゃあ理解してもらうには実演するしかないか」
俺は道沿いの公園の様な場所に荷物を置き、背負っていたギターを取り出した。
「何? この変な形をした木の板は」
「これはギターっていう楽器だ。 音楽をするための器材だから楽器」
「ふーん、興味あるわ。 やって見せて」
「お任せあれ、こちとら今日まで現役のバンドマンだったんじゃ。 俺の歌声に酔いしれろ!」
俺は自分の曲の弾き語りを始める。
我ながら曲作りのセンスはあると思う。
1コーラス歌って弾いて見せたところで演奏を止めた。
「ほら、これが歌! 音楽!」
リーナは何やらプルプルと震えている。
もしかして俺の歌がそんなに下手だったのか?
売れないバンドマンではあったけどそこまで酷くはないはずだぞ?
「な、何これ…… 音がこんなに綺麗に響くなんて初めて……!」
ど、どうやら感動してもらえた様だ。
「え、何これマサオの世界の文化なの? もっと聞かせて!!」
「お望みとあらばいくらでも」
そこから1時間くらい俺のオリジナル曲をリーナに聞かせた。
リーナは飽きることなく興味津々で、時には涙しながら俺の曲を聞いてくれた。
10年近くバンドをやってきて、これだけ真剣に曲を聞いてくれたのはリーナが初めてだ。
リーナだけでなく近くの道を通る人も俺の歌を聞くために足を止める。
もしやと思いギターのケースを開き目の前に置くと、これでもかと言わんばかりにお金が投げ入れられていく。
この投げ銭制度は世界共通らしい。
演奏を終えると観客から大きな拍手が巻き起こった。
称賛の声がサラウンド音源の様に耳に入ってくる。
またいつかここで路上ライブをすることを観客の前で宣言し、ギターをしまった。
「投げ銭沢山入ってるけどこれいくらくらいだ? 少しは返済できてるか?」
「わ、私が立て替えた額の10倍はあるわよこんなの!」
「じゃあ返済して奴隷解消?」
「残念だけどそうね…… これから帰って料理、掃除、洗濯と色々お願いしようとしてたのに‥…」
え、料理?掃除? それって家に上がっていいってことなのか?
そんな大チャンスを俺はこの路上ライブで棒に振ってしまったのか?
正直音楽にもう未練なんてない、俺は音楽で有名にならなくてもいい。
現実世界であんな思いをしたんだ、今すぐこの楽器も捨ててしまいたいくらいだ。
そんなことより今は可愛い女の子に囲まれてキャッキャしながら暮らしたい。
何かいい方法はないものか…… 可愛い女の子可愛い女の子……
そうだ!!
「リーナ、俺が曲を作るから歌ってくれ」
「え、私が!?」
「ああ、俺の世界にはアイドルっていう職業があってだな、可愛い女の子が歌って踊るんだ」
「歌って踊るなんてそんな…… 私そんな事した事ないし……」
リーナがもじもじしている。
さっきまでの女王様キャラはどこへ行ったやら。
「リーナの可愛さと俺の曲があれば、きっと人気が出る! 頼む、この世界の人々の癒しの為(俺の異世界ハーレムパラダイスの為)だと思って!」
「でも……」
「頼む、料理でも掃除でも何でもするから!!」
むしろそれらに関してはやらせていただきたいくらいなんだが。
奴隷については全然継続させていただきたいんだが。
「わ、分かったわ…… でもまずは練習してみてからでいい?」
「勿論!! よっしゃあぁぁぁぁ!!」
「とりあえず、今言ったことに二言は無いわね?」
「おう、男に二言はねえ!」
「じゃあまずはうちに来てくれる?」
その台詞を待ってました。
俺は心の中で渾身のガッツポーズを決める。
ここはまた俺のイケボの出番だ。 また喉を鳴らす。
「勿論さ、マドモアゼ‥…」
「あれが私の家」
またイケボブロックが発動した。
まあいい、まともに耳にしたら恋に落ちてしまうことを悟ってのことだろう。
ふふ、いつか耳元でフルバージョンを囁いてやるさ。
リーナが指差す方を見る。
あまりの光景に絶句する。
家のドアからゴミらしきものが大量にはみ出ていた。
このリーナ、ゴミ屋敷の住人だ。
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