アラサー元バンドマンが異世界でアイドルプロデューサーを始めるそうです!〜悪役令嬢、聖女、エルフ、ハーレムのためなら種族身分は問いません!〜

もずくさん

第1話 突然奴隷になりました!

 突然ライトが消え、会場にざわめきが起きる。

 暗転した状態でSE入場曲が流れ始め、体を震えるほどの低音が会場全体を覆う。

 会場の一体感はピークに達し、観客はステージ側に釘付けだ。

 いつ彼女たちが登場するのかに胸を躍らせながら体を揺らしている。


 突然、カラフルな証明がステージを照らす。

 そこには人気アイドルグループ、Honeycomb☆ハニカムのメンバーの姿があった。

 センターの女の子がマイクを取り観客に向かって叫ぶ。


「みんなお待たせ!! 1曲目いっくよ〜〜!!」


 ****************************


 俺はただ新宿の街をフラフラと歩いていた。

 学生時代から全精力を注いできたバンドをたった今クビになった。

 理由は簡単だ、売れるには俺の歌声じゃ難しいという他メンバー3人の判断だ。

 練習のつもりで来たのに突然クビ宣告され、自分の機材片手に行く当てもなくただ歩いている。


 明日からはバンドマンという肩書を失い、日雇いアラサーとして生きることになる。

 残っているのは来月には底を尽きるであろう心許ない貯金と、曲作ちのコツだけである。


「酒でも飲んで帰るか……」


 正直酒なんて飲む気分ではない。

 だが飲まないとやってられない。

 誰かに愚痴を聞いてもらって、このどうしようもない喪失感から一時的にでも解放されたいのだ。


 顔を上げると煌びやかな看板が目に入る。

 ——キャバクラか。

 今日くらい金を使ってもいいだろう、なんせ今日はこれまでの人生で最悪な日だ。

 と書いて最悪だ。

 こんな日にキャバクラに行ってもバチは当たらないだろう。


 ビルの入り口を通りひたすらに階段を下る。

 ただひたすら下る。

 下る。


 ——もうどれくらい下っただろうか、5階分位は下っているだろう。

 バンド関係の機材が俺の背中に重くのしかかる。

 もうこれ以上は階段を下りたくない、そう思った時だった。

 やっと目の前に扉が現れた。


「やっとか…… お邪魔しま〜す」


 重厚な扉を開けると、紅い妖艶なライトがこぼれ出す。

 店内の雰囲気に下がっていた俺のテンションは一気に跳ね上がった。

 そう、俺は女好きだ。

 ボーイに案内され、店の一番奥のソファーに座る。


「女の子はもう少ししたら来るんで少々お待ちくださいね〜」

「いい娘を頼むぞ」


 我ながらゲスなことを言ってると思う。

 自覚はあるが改める気はない。


 着席してから数分待つと、朱色のロングヘアーをした美少女が俺の席についた。

 健康的な肌、髪と合わせた様な朱色の瞳、こんな美少女今まで見たことがない。

 街中を歩いていたら、男はみんな振り返ってしまうだろう。

 彼女の可愛さに俺のハートが熱く情熱的に燃える。


「初めまして、リーナです」

「リーナちゃんていうんだ! 可愛らしい名前だね!」

「ありがとうございます! お兄さんのお名前は?」

「俺はマサオ、よろしく!」

「マサオさん、今日はご来店ありがとうございます! すごい荷物ですけど、旅行でも行かれたんですか?」

「いや、今日はバンドの練習でさ…… 荷物はその機材」

「バンド……? ライブ……?」


 リーナは首を傾げる。

 何か俺が言ってることはおかしかったか?


「ああ、音楽をやってるんだよ」

「音楽……?」


 リーナの顔がどんどん曇っていく。

 何か地雷踏んだのか? 

 もしかして元彼がバンドマンで酷いフラれ方をしたとか?


「ごめんごめん、興味ない話をしちゃったね!」

「すみません、よく分からなくて…… あ! 今日はどちらからいらっしゃったんですか?」

「板橋区から!」

「い、いたばし……?」


 さっきからなんなんだ、何を言っても語尾にはてなマークがついて返ってくる。

 ついには頭の上にはてなマークが見える様になってきた。

 これは新手の嫌がらせか?


 俺の何とも言えない雰囲気に気づいたのか、リーナは話題を変える。

 そこからは数十分、リーナとお酒を飲みながらお喋りを楽しんだ。


 そろそろ時間だ、俺の決め台詞の出番だ。

 俺は喉を鳴らし、声の通りを確認する。

 バンドではボーカルを担当していたので、イケボには自信がある。

 この決め台詞を聞いて落ちなかった女はいないぜ。


「今日、この後よかっ……」

「本日はご来店ありがとうございました!」


 リーナは会釈し、席を立った。

 完敗だ。


 その様子を見たボーイが近づいてくる。


「それではお客さんお会計を……」

「あいよ、いくら?」

「1万ゼニーとなります」

「1万か、あの子の可愛らしさを考えれば格安だぜ」


 俺は財布から1万円を出し、店員に渡した。

 店員は手渡された1万円札をまじまじと見つめ、俺に返してきた。


「どこの国の通貨かは分かりませんが、当店はゼニーでの支払いのみとなります」

「ぜ、ゼニー!? そんな通貨聞いたことないぞ」

「もしかしてお兄さん、無銭飲食ってやつですか」

「そ、そんなことはない! 来月分くらいまでなら貯金もある! ゼニーっていうのは知らないが!」

「じゃあ早く出してもらえますか? こっちも忙しいんですよ」


 どんどん店員の態度が強気になる。

 一方の俺は焦りからどんどん行動が挙動不審になっていく。

 そんな様子を見たリーナが近寄ってくる。


「マサオさん、お金ないんですか?」

「あ、あるんだけどねぇ……」

「この店お金払えない人に対しては厳しくて、飲食分働くまで店から出してもらえませんよ」

「ひえぇ、それだけはご勘弁を!!」

「ここは私が立て替えてあげます」


 な、情けない。 

 こんな美少女に自分が飲み食いした代金を立て替えてもらうとは……


「その代わり……」

「その代わり……?」

「返済するまで私の奴隷になってもらいます」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 こうして俺は突然美少女の奴隷になった。

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