第20話
『え……えー、それでは部屋の中のVTRに移る前に、この制度について知ってらっしゃることをお話いただけますか?』
司会者が突然話題を変えた。
『えっ? 私が知ってるのは、最初に言った契約内容くらいだけど?』
『その辺りをもう少し詳しくお願いできますか?』
小池は面倒臭そうに足を組み替えたあと、話し始めた。
『だから、十日以内に殺したい人と殺す方法を決めて、あとは殺しに行くってことだってば』
『それは……誰でもいいんですか? それとも、それなりの理由が必要なのですか?』
『誰でもいいし、理由なんて聞かれないわ。言いたくても聞いちゃくれないわよ』
渡邉のオーバーアクションがうつったのか、小池は肩をすくめて両手の平を上に向けた。
『理由はいらないのですね? それから?』
『それから刺殺、毒殺、絞殺の中から好きなのを選ぶだけよ。あとは大統領代理が全部してくれるし……殺す以外はね』
小池は、最後の言葉を強調した。司会者は確認するかのように繰り返す。
『殺す以外には……なるほど。その他に何か決まり事のようなものはないんですか?』
『決まり事? そうねぇ』
小池は少しだけ考えた後、思い出したように呟いた。
『そういえば、このこと人に言っちゃいけないんだった』
『そうですか、そん……ええっ!?』
司会の男は、こちらも渡邉を彷彿とさせるリアクションを見せた。
『たしか、人に喋ったら残りの二人のどっちかに殺される、とかって言ってたような……』
『の……残りの二人とは……一体』
『だから、この試験に選ばれた私以外の二人。高校生の男の子と……あと誰だっけ?』
小池の話を受けて、俄かにスタジオ内が慌しくなってきた。
『そっ、それではVTRに……えっ!? 責任? あ……違っ、しっ、失礼! 一旦CMです!』
このあとの放送がどうなるのか、俄然楽しみになってきた。
「だけどホントに忘れてたのか、この人。おまけに残りの一人が七三だってことも忘れてるし。忘れっぽいのか変わってるのか……」
ふと気付けば前のめりになってテレビを見ていた。思い切り伸びをして、丸まった背中を反らしていると、再びあの人殺し専用携帯が鳴った。
「…………」
俺は電話に出るのを少しだけ躊躇った。
テレビで小池から散々なことを言われていた渡邉を、うまく慰める言葉が見つからない。それどころか、ついうっかり口を滑らせて小池が触れなかったカツラ疑惑を持ち出し、追い討ちをかけてしまいそうだった。
しかし、いつまでも電話に出ないわけにはいかない。俺は意を決し通話ボタンを押した。
「……もしもし?」
「滝沢様ですか? 私、大統領政策室第二秘書の毛利と申します」
電話をかけてきたのは渡邉ではなかった。
「え……あ、えっと……滝沢です。あの……渡邉さんは?」
「渡邉はただ今大変取り込んでおりますので、私が代理でお電話を差しあげております」
この第二秘書の毛利と名乗った男は、渡邉と同じく言葉遣いは丁寧だが、なんとなく面白みがない。
「ふーん。もしかして渡邉さん、テレビ局に行ってたりして」
俺が探るように言うと「渡邉の所在及び行動につきましては、滝沢様には一切関係ございませんので、お教えする必要はないものと考えます」と、まるで機械のように答えた。
こんな人と話していてもつまらない。
「あっ、そ! で、なんか用?」
俺は用件のみをさっさと聞いて、この電話を早く切ることにした。
「はい。早速ですが滝沢様、この人殺し権のことをどなたかにお話になりましたか?」
「いや、まだ言ってないけど。でも、言っても殺されなくなったんだよね?」
「いえ」
これまた機械のように短く答える。
「当初ご署名をいただきました契約内容に変更はございません。テレビ放送に係り内容を一部変更する案も確かにございましたが、今のところ変更はございません」
背筋に悪寒が走った。先ほどの康介とのやり取りの中で権利のことを教えていたら、殺されていたということなのか。冗談じゃない。しかし……。
「あっ! じゃ、こ――」
俺は言いかけた言葉を素早く飲み込んだ。
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