第19話
「いよいよ……か。でも、なんか見たくないような。いや、見とかないと自分の時が困るしな。いやでも……」
結局、悩みながらもテレビから目が離せずにいた。
そしてVTRが始まろうという時、携帯電話が鳴った。今度は人殺し専用携帯ではなく、自分のスマートフォンにメッセージが入っていた。
≪おいっ! テレビ見てるか!? 人殺してもいいんだって?≫
それは、親友の康介からだった。
≪見てる
けどお前、なんか違うぞ
殺してもいいんじゃなくて、一人だけ殺してもよくてそれが罪にならないってことだろ≫
テレビには、小池と渡邉を乗せた車が移動している様子が映し出されている。
≪お前相変わらず冷静でムカつくw
俺、誰殺すか考えたらコーフンしてきてヤバイ!≫
こんな康介に、自分もKと同じ権利を持っていると教えたら、どんな反応を見せるだろうか。
「もう、このこと人に言っても俺は殺されないんだよな」
好奇心がむくむくと沸き起こる。しかし今は、長々と文字を打つよりもテレビをじっくりと見たい。
≪興奮して布団汚すなよ! 続き見たいからまた後で≫
男女二人が車から降りて、周辺にモザイクがかけられたアパートに向かって歩いている。
≪ティッシュ用意してある! 俺も見る≫
「……相変わらずだな」
<殺害相手のAさんの部屋の前に着いた模様です>
隠し撮りをしているカメラの横にいるのか、男性リポーターが小声で実況している。映し出されているのは玄関の扉、そして聞こえてくるのはインターホンの音、その後カチリという音。どうやら小池はマイクを隠し持っているようだ。
『はい』
これも顔にはモザイク処理、声も甲高く変えられた女性が出てきた。
『はじめまして。突然の訪問にさぞ驚かれてらっしゃることでございましょう。申し訳ございません。実は私、日本国大統領若草吾郎氏の代理を務めます(ピーッ)と申します』
礼儀正しく名乗った後に、深々と頭を下げる渡邉。
『えっ、あの……大統領? 何のことだか私……あら? (ピーッ)ちゃんのお母様、どうしてここに?』
『どうしてって、うるさいわね。黙って聞いてりゃ今に分かるわよ! あははは』
『(ピーッ)さん……』
<アパートの玄関先で話しているようですね。実はKさんの持っている鞄に隠しカメラをセットしてあります。部屋に入った場合は映像をそちらに切り替えます>
リポーターの囁きを待っていたかのように渡邉が短く咳払いをし、女二人の間に入った。
『今般(ピーッ)様に対しまして、政府より発効されます事柄がございます。少々憚(はばか)られます内容でございますので、できましたら中でお話させていただけますと、大変助かるのでございますが』
渡邉の申し出に、戸惑いつつも二人を部屋の中に招き入れる女性。
カメラの視点が外から小池の鞄内に切り替わる前に、一旦スタジオに戻る。
『このあとAさんに人殺し権の説明をされるわけですが、ここまでで何かおっしゃりたいことは?』
司会者の問いかけに、小池は深いため息をついた。
『はあ……とにかくこの大統領代理がウザくて』
『……はっ?』
司会者は、期待していた答えとまるっきり違うことを言う小池に対して、呆気に取られていた。
『だって、これ見てて分かるでしょ? 喋りは馬鹿丁寧だし、回りくどいし、何しても大袈裟だしさ。一緒にいるともう苛々しちゃってたまんないのよねー』
「うっわ! なんか最初の時とは別人じゃないか、この人」
小池がスタジオに登場して話し始めた時は、丁寧な口調で語り、また自分と同じ立場だということもあって少し好感が持てたが、今は単なる我が儘なおばさんにしか見えない。
「こりゃ……視聴者の反応が楽しみだな」
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