第18話
『それでは殺害方法でございますが、いかがなさいますか?』
『そりゃ、もちろん毒殺よ! あの女の血なんて浴びたくもないし、それに……じわじわ苦しませなきゃね』
『承知いたしました』
「女って怖ぇ……」
たぶん娘の待遇云々より、自分の夫が先生を褒めるのが嫌というほうが本音だろう。
「でも、テレビでこんな残酷なこと放送していいのか?」
このまま放送が続くとなると、もしかしたら人を殺すところまで流すかもしれない。いくら大統領が好き勝手に国を動かしているとはいえ、そこまでしてもいいのだろうか。
俺の考えをよそに、画面はスタジオに戻り司会の男が興奮した様子で語りかけてくる。
『現在、テレビ局には電話が殺到しています! その内容は、自分もその権利が欲しいというものや若草大統領を称賛するものばかりです!』
「へぇ……」
その時、人殺し専用携帯が鳴った。
「もしもし?」
「渡邉でございます」
なんだか嫌な予感がした。
「あ……えっと、お疲れ様です」
「はい、疲れております」
社交辞令で言った挨拶に真面目に答える渡邉。
「そうなんだ……って、今大変なんじゃないの? 電話なんかしてて大丈夫!?」
「OH!」
左手に携帯電話を持ち、右掌を額に当てている様子が目に浮かぶ。
「そうです! 大変なのです! 滝沢様、テレビは引き続きご覧になられましたか?」
「見てるよ。この人すごい……いや、えっと……なんて言うか、すごい人だね」
「ええ、仰いますとおり、かなりの……えー、なんと申しますか、個性的な方でらっしゃいます」
「個性的、か。ものは言い様だね。で、何の用? 俺がこの人殺すことに決まったとか?」
「ああっ! そうです! そうなのです! そのことなのですが、少々厄介なことになりまして……」
渡邉は言葉を濁した。
「厄介って!?」
「はい。当初の契約では、人殺し権のことにつきまして他言なさいました小池様を、滝沢様か私が殺害する予定でございました」
「うん」
「しかしながら、先ほど番組司会者から発表がありましたように、この制令を支持する声がテレビ局に殺到しているようなのでございます」
支持する気持ちが全く理解できなかったが、反論すると渡邉に殺され兼ねない。
「そう……みたいだね」
「はい。それをお知りになった若草様が大変お喜びになられまして。その、例の契約内容を変更されるようでございます」
「……ってことは」
「ということは、何だと思われます?」
言いながら今度は、腕を後ろに回して身を乗り出しているに違いない。
「契約変更ってことは、違反にならなくなるから……この人を殺さないってこと?」
「ご名答! さすがは滝沢様。今のところはその方向で……あ、呼び出しが! またおかけいたします。それでは、ごめんくださいませ」
先ほど同様、慌ただしく電話が切れた。
「クイズかよ……ってか、俺の質問はどこいっちゃったんだ! なんか、この調子じゃしばらく無理なんだろうな。あー、嫌な予感大当たりだよ」
タイミングよく、テレビはCMを挟んだ後、再びスタジオを映し出していた。
司会者が喋っている画面の下側に、次のようなテロップが流れている。
[只今、当テレビ局へのお電話が大変繋がりにくくなっております。今しばらくお待ちになっておかけ直しください]
『いやぁー、すごい反響ですねー! くれぐれも、おかけ間違いのございませんようにお願いいたします。それでは引き続き殺害までの様子をご覧いただきます』
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