第13話
自分の部屋に戻り時計を見ると、ちょうど正午を過ぎたところだった。
「ということは……十一日の昼まで、か」
期間は十日間。それまでに誰かを殺さないと……。
「ただいま」
そんな物騒なことを考えている時、玄関から声が聞こえた。母親が夜勤を終えて帰ってきたようだ。
「おかえり」
階段を下りながら声をかける。
「遅くなってごめんね。お昼ご飯は?」
「ん……まだだけど、いらない」
昼食を断った俺の顔を見て、母親は「食欲ないの? なんだか疲れた顔してるけど」と、心配そうに言った。
「んー、暑いからかな」
「今年はいつもより暑いからね。何か作って置いておくからお腹空いたら食べて。母さん少し休むから」
「了解。お疲れ様」
そう言って階段を上がりかけた時、背後から声が聞こえた。
「一彦」
「ん?」
面倒だったが一応足を止めて振り返ると、母親がいつになく真剣な顔をしていた。
「何があったかは知らないけど、一人で抱えきれなくなったらいつでも言いなさいよ」
「……何言ってんの。母さんのほうが疲れてるんじゃないの? おやすみ」
俺は早口でごまかして、足早に自分の部屋へ戻った。
「ふう、危なかった」
普段どおりにしていたつもりでも、親というのはなんとなく子どもの異変に気付くものなのだろうか。
しかし、たとえ母親であろうとも人殺し権のことは言えない。
「でもなぁ……」
このままの態度だと、きっとまた心配をかけてしまうような気がする。かといって、ずっと明るく振る舞うのも、なんとなく不自然だ。
「あー、こんなことなら演劇部にでも入っときゃよかったなぁ」
一人愚痴をこぼしながら、机の上に置いてある参考書と契約書を交互に眺める。
「よしっ!」
俺は決めた。さっさとやってしまおう。そして、早く元の生活に戻るんだ。
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