第14話
さっそく、手始めに殺害候補者リストの作成から取り掛かかることにした。
「……って言ってもなぁ」
今までの十七年間、たいしたトラブルもなく過ごしてきた俺には、殺したいほど憎い相手がすぐに思い浮かばなかった。
「誰かいたっけ……」
目を閉じ、今までの人生を振り返る。
――嫌な思いをさせられた相手とか
そういえば、小学校のとき俺の椅子の上に画鋲を置いた奴がいたっけ
あれって誰だったんだろう
あとは……高校一年の時、俺の好きな子だと知っていながら横取りした佐々木
数学の山田も嫌いだけど……
どれも、相手を殺したいと思うほどのことではなかった。
「あーっ! 俺ってなんていい奴なんだっ!」
思わず自分を褒めてみたが、なんだか虚しい。いくら考えても、殺したいほど憎い相手なんて微塵も思い浮かばない。
「大体どんだけ嫌いでも、知り合いは普通殺せないよなぁ」
椅子の背もたれに思い切り体重をかけて、腕を組み天井を見上げる。
――知り合いが無理なら
全く知らない相手なら、なんとか手を下せるかもしれない
だけど、全く知らない人なんて……
いや、待てよ
知らない人……知らない……
俺の脳裏にある考えが浮かんだ。
「そうか……デスノートだよ!」
映画にもなったあれは、確か最初は犯罪者を殺していたのではなかったか。
すかさず俺は渡邉が置いていった携帯電話を手に取り、附則の最後に記入してある番号を押した。
「はい。渡邉でございます」
すぐに電話は繋がった。
「あ、滝沢です」
「滝沢様、先ほどはお邪魔いたしました。その後いかがでございましょう。落ち着かれましたでしょうか」
「いえ……あ、おかげさまで……」
「それはようございました。で、私に何か?」
「ああ、そうだった!」
渡邉との会話は知らず知らずのうちにペースを乱されて、何を話したかったのか忘れてしまいそうになる。
「えっと……殺す相手だけど、知らない人でもいいの?」
「面識のない方、ということでございますか?」
「うん。例えば犯罪者で刑務所に入っている人とか」
「なるほど、そういう手がございましたか。さては滝沢様、殺したいお相手が見つからなかったのでございますね?」
さすがに鋭い。
「うん、まあ……で、いいの?」
「そうでございますね。基本的には氏名と所在が明らかな方であればどなたでも可能でございます。しかしながら、所在が刑務所や拘置所内の場合、その対象となりますかどうか……」
あの渡邉にしては、歯切れの悪い返事だった。
「そうなんだ」
「はい。申し訳ございません、この件に関しての回答は後ほどでもよろしいでしょうか? 検討してご連絡差し上げたいと存じます」
「いいよ。よろしくね」
もしかしたら、何とかなるかもしれない。俺は少し気が軽くなって、明るく答えた。一方、渡邉の声は暗かった。
「私、滝沢様と話すと心底ホッといたします。それに引きかえ小池様ときたら……」
「小池さんって人、どうかしたの?」
「えっ!? あっ、いえ、何でもございませんっ!」
電話の向こうから、「私としたことが」という呟きが聞こえてくる。
「じゃ、連絡待ってるから」
もう一人の試験人のことが気にならなくも無いが、とりあえず一安心した今は早く電話を切りたかった。
「承知いたしました。少しでも滝沢様のご負担が軽くなりますよう、不肖この渡邉、全力を尽くしてまいります」
「……選挙か」
「はっ!? 選挙は、この先当分ない見通しでございますが?」
「あ、いや、えっと……もし次の選挙に渡邉さんが立候補したら、俺一票入れようかなって」
途端に、先ほどの呟きとは打って変わって、照れたような声が電話口に響く。
「なっ、何をおっしゃいますやら。滝沢様は本当に面白い方でいらっしゃる。私たち益々うまくやっていけそうな気がしてまいりました」
「う……うん、よろしく……」
渡邉は上機嫌のまま、丁寧に挨拶をして電話を切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます