立ち枯れた木のいかずちのように走る枝がつないでいたもの

それはどんなにか豊かだったろうとわたしは想像する

生い茂る葉越しに見える澄んだ青や明るい鳥の声であったり

なにげなくすぎる季節や行き交う人々の言葉であったり


月を格子に捕らえた黒い虚像は凍てつきそうな湖上から

なにを誇示したいのか口早におなじ話ばかりする

そのたびに波立つ水は歪んだ視界と曖昧になり

現実をますます撹乱させるので思わずかぶりを振った


ひび割れた心に枝先がやけに引っ掛かりチクチク痛む

木が自分の心象であることに気づくのは容易だった

絡みつくように擦り抜けていた風たちも凪いでしまい

貧しい土壌から動けない身をひたすら呪うばかりである


否 わたしは

むしろ木ではなくこの世に間借りする一握の土のほうだ

必要な養分を持たないために木を枯らしてしまった

花も実もつけられぬまま立ち尽くしている亡骸を

セピア色に乾いた墓標を背負ったままでいる土だ


もはや幻想である

忘却ではなく理想的な過去に思い当ってもあまりに儚い

沸き返るように咲く花々や人々の賑わいもない

この先も生きることは虚しい自己主張にすぎないのか

判らない

確かなのは種から木を育て直す必要があるということ

取り返しがつかないだろうということ

それだけ





20201206

第98回 詩コン『散』

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