延延と川は思いのほかに長く在り

いつかと今日とでは違う水が滑りゆく

それでも人は川と呼ぶ その流れをこそ川と呼ぶ


人は体すべての細胞が入れ替わっても

個として成立した腕で舵を切るテセウスの船

川もまたおなじパラドクスのもとに走る


ひとしずくは分化する卵細胞のよう

増えては目覚ましい成長を遂げる

奔放さは岩をも削り老成するほど豊かに微笑み


川よ

山野に生まれ人の世を遠目に見てゆく川よ

街を縫い合わせ 人を縫いとめている川よ

わたしたちのなかにも流れているものがある


遠く近くさざなみが光る

海を目指してここまで来たのだ


延延と道は思いのほかに長く在り

振り向けど源には帰り着けない

進んでゆくのみ


滔滔と川はゆく

輪廻のなかを流れゆく




200904

第86回 詩コン 『川』

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