薄氷うすらいが張り詰める水底で

ぼくは今日も詩を詠みながらすごしていて

発した波紋をあぶくのように天に返しているが

霧散するためにほとんどが叶わないのだった


詩の定義は曖昧なうえにデリケートで

話し言葉であり歌であり文章であり

感情であり喩えであり遊びでもあるので

なにが正しいのかが皆目判らないでいる


それでも生きねばならないので

言葉を選びつつ選びつつ息をしていると

沈むビル群を銛で突き刺す稲妻を見た

紫陽花は珊瑚のように笑っていた


高みをゆく流氷はときにすべてを覆うので

息苦しくもなるが垣間見える青はまた格別で

辺り一面がソーダ水と化すのが悪くない

点滅を繰り返すうち日がすぎて季節はうつろう


薄氷うすらいが融けそうな水底で

ぼくは変わらず詩を詠んですごしている

天上は分け隔てなく常に水面を指して

底は深く空は高いと教えてくれるのだった




200701

第77回 詩コン 『雲』

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