第5話 箱 ③

 PLの杉堂は見たところ年齢不詳だが、20代とは言い難い。

 おそらく、40手前。

 小太りで中背。

 動きも緩やかでのんびりしているが、小さな目の奥に、何となく只物ではない光を漂わせている。

 その杉堂が、手を後ろに組み、話し始めた。

「皆さん。おはようございます。あっ、今第11部隊が箱に入り始めましたね。もうすぐ私達13部隊も箱に入ります。ちなみに、私達が最後尾の部隊となります」

 ざわざわ。

 PLの杉堂の体形そのままののんびりした物言いに、コマンド達が身近な者と顔を見合い、何かしら驚きの声を掛け合った。

 俺はそんなことをしない。

 そもそも№8チームに話す相手も話したい相手もいない。

 だから後ろを振り返って、後方に同じく整列している第14、15部隊を見た。

 じゃあ、あいつら何のためにいるんだ?

「黙れ!うるさい!」 

 可愛い顔の割りに、舌足らずでエロティックだが、少しヒステリックな要素を帯びた震える声で永水愛羽が叫んだ。当然、視線を集める。色白の肌が桜色に染まっていた。

「まあまあ。永水さんが怒ってますので、皆さん静かにしてください。皆さんは14、15部隊が気になると思うのですが、簡単に言うと、彼らは外で待機するチームです。箱の中の探索は、第1から第13までの、総勢1,300人が行います。目的は、箱内の空間のマップ作成と、重要と思われる物の回収、そして、最奥部までの到達です。はっきりは言えませんが、事前の調査によると、最奥部までは100㎞ほどと言われております。1日の探索距離は10から20㎞ほど。おおよそですが、往復2週間で見ています。ただ、問題は、第1部隊より先に」

「杉堂さん」

 杉堂が何か話そうとするのを、顔は柔和だが、遠目にも目力のある、SVの一人が遮った。

 杉堂は一瞬きょとん、とした顔を見せたが、当のSVが首を横に振ると、何か思い出した様で、小刻みに頷いた。

「失礼。あれです。おおよそ2週間でここに戻って来る予定です。ちなみに、中に車両は持ち込めません。あの通り」杉堂が振り返って箱の入り口を指差す。

 皆、釣られるように、箱を見た。照り付ける真夏の太陽のせいで眩しい。良くは見えないが、先行する部隊はどうやら一人ずつ入っているようだ。

「入り口は狭いです。組み立て式の車両を準備する、という話もあったのですが、事前調査によると、それもあまり役に立たないようです。ただ、3週間分の食料と替えの衣料品、また、使い捨ての洗体シート、水、などの備品、消耗品類は用意していますので、その点は心配しないでください。別にBOXがいくつかありますが、これについては箱の中に入ってから説明します」

「杉堂さん」

 先ほどのSVとは別の、太めで気の強そうな男が、見た目を裏切る柔らかい声質で杉堂の名を呼んだ。

「なに?倉橋くらはし君」

「そろそろ。12部隊が半分入っちゃいましたよ」

「あっ、もう?じゃあ行きますか。ひいらぎさん、カベさん、先導してください。私は倉橋さんと、七川しちかわさんと後から行きます」

 杉堂がのんびり言うと、柊と呼ばれた明らかにきつめの目尻をした女性のSVと、カベと呼ばれた中年のSVが少し不満げに肩を竦め、特に言葉もなく、箱に向かって歩き始めた。

 UL達は一瞬顔を見合わせて、七川と言うのだろう、杉堂の話を遮ったSVを見た。七川が、すでにその場を離れつつある2名のSVと、杉堂と倉橋の間に立ち、ULに頷くと、意志が通じたのか、UL達はそれぞれの抱えるコマンドリーダーに前進の指示を出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る