1-4 取り調べ
山田は落ち着いた様子になる。
「さて、再開しよう。 昨日、普段変わったことはなかったか?」
上田はこの質問を毎回するが、あんまり期待していない。 事件を解決するカギにもなり、何もないなんてこともある。 だが、このフレーズを言う。
「いいえ、特に変わったことはなかったです。」
「そうか、分かった。 質問だ、もし君に100万円が入ったらどうする?」
上田にはこの質問がその人の一部を知ることができるもんだと思う。 金の使い道によって、トラブルを起こす可能性があるかないかを探ることができる。
お金の額も高すぎると回答者の想像がつきにくい、安いと逆に探りを入られない。 だから、安すぎず高くもない額で訊く。
「100万円ですか、7割は貯金で残りは何かに使います。」
「うん、堅実な考え方だ。 ありがとう。 今まで質問をしたことはもらさないでほしい。 それと終わったらこのコテージで待っていてほしい。 最初に言ったとおり君を犯人として疑う可能性が高くなる。 いいな! 次は松本を呼んでくれ。 本人がいいタイミングで入ってもらうだけでいい。」
「分かりましたよ。」
山田はそう言うとドアを閉める。
山田は上田刑事に対して印象が変わっていた。 最初は“お前”と呼んでいたのに取り調べのときは“君”と丁寧に変わっていた。
荒い印象に思えたが、案外頭を使って捜査
をしているようだ。
松本から口を開く。
「どうだった? どんなことを訊かれたんだ?」
「ごめん、答えられないんだ。 松本君を疑っている訳じゃないんだ。」
「分かってる。 当たり前だよ。 自分が同じ立場だったら、同じことを言うよ。」
坂上は肩を落とす。 一言も発していないが松本と同じことを訊きたかったようだ。
山田は複雑だった。 親友の松本に教えたい一心もあったけど、もしかしたら憎い村上を殺している犯人かもしれないと疑う自分がいた。
「そこに座っていいかな?」
山田は仲がいいはずの2人に馬鹿げたことを言う。
「何を言ってるんだ。 座れよ。」
坂上は同じことを言う。
山田は松本から真向かいのところで坂上はななめのところに座る。 となりは一席空いている。
「松本君、君が行きたいときに入ってくれって言っていたよ。」
「あぁ、行きたいが少し暖炉の火を少し見ていたんだ。」
山田はこんな松本のようすをあんまり見たことがない。 いつも明るく振る舞っているが、弱ったようすだ。
松本は手を出して、火で暖めている。
「なぁ、なぜこんなことが起きたんだ? 昨日は村上がいなかったら、もっと楽しかっただろうけどよ。 楽しく過ごすはずだったろう」 坂上は言う。
「それは…」と山田は言葉に詰まる。 山田は答えようにも答えられない。 なぜ起きたか分からない。
「僕にはわからない。」
「そうだよな。 みんな口に出さないけど、村上勇気は最低なやつだ。 そうだろう。」
松本は小さく頷く。
「うん。 最低なやつだ。」と山田は答える。
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