1-3 取り調べ
山田は少しの間、黙って答えた。
「僕を含めて、村上を嫌っていました。」
上田は違和感があった。 坂上君、松本君と君をつけていたのに村上だけが君がない。
「みんなが嫌っていた? なぜ君たちのサークルに属している?」
「それは学校中のみんなにはいい顔をしていましたからね。 僕を含めて3人以外はなぜ殺したか不思議でたまらないでしょう。」
「いい顔とはどんなエピソードがあるんだ。」
「それは授業でリーダー役をかって出てたり、分からないところを親切に教えていましたよ。」
上田は頷けた。 学生のころはリーダーを誰にするかを押しつけていた。 リーダーを申し出るのは珍しいことではないだろうか。
分からないところがあれば、教えてくれるのはありがたいことだ。
「裏があるんだろう。」
「そうですよ。 教えるのは僕に訊いていた。 リーダーはやったはいいものの僕ら3人のだれかをグループに入れていたんです。 後は分かりますよね?」 山田は皮肉めいた声で訊いた。
上田には分かった。 協力者を入れていれば村上が上手くコントロールすることによって村上という人物の評価を上げることは可能だ。
問題はどうやってコントロールするかだ。
コントロールされる側の何かの弱みを握る、何らかのメリットをやる。 それか何か心理的なものがある。
はたして、どれだろうか? 上田は迷う。
「分かるよ。 何か弱みでも握られていたか? 金でつられたか?」
山田はふっと小さく笑う。
「刑事さんは分かっていないです。 弱みがあるのはあいつだ。 金? 困っていましたよ、あいつは。 金を僕らから借りていた。 最初は少しだけならっと思っていましたよ。 あいつは少しだけを繰り返していたんですよ。 ずる賢いやつです。 頭の中に僕らの給料事情は入っている。 どこから情報を仕入れたのか分からないですけどね。 坂上君からは相当な額をもらっていたんじゃないかな。 村上はアルバイトなんかしていない。 僕らからお金を借りるんじゃなくてもらっていたんですよ。 お金を返してほしいと言うと話をすぐにはぐらかす。 話術だけは取り柄でしたかね。」
上田は気になった。 山田は相当な怒りを感じているようだが、あとの2人は感じていないだろうか。 嘘って可能性はある。 上田は聴くしかなかった。 今いる3人以外の同級生から訊いたが、信頼感は相当なものだった。 皆、くちをそろえてこう言う。
「村上はいい人だ。」
「頼りになる。」
話は上田と田中以外の刑事が聞き込みに行ってくれた結果だった。 結果に偽りはないだろう。 みんなの口をそろえるのは難しいことだ。誰かが村上の嫌な話を言うことだってありえた。 それがないことは本当であることを指している。
「なるほど。 君は村上勇気が殺したいほど憎いか?」
「憎いですよ。 だけど、殺したいと思うのは犯罪ではないです。 あなたにもいるでしょう。」
相棒の田中は「いないです」と素っ気なく答えるだけだった。
「まぁ、おもうのは犯罪じゃない。 村上にたいしての考えは分かった。 起きたときの状況を教えてくれ」
山田は少し間をおいて答えた。
「あのときはたしか… 7時ごろだったでしょうか。 食事が終わって、部屋に戻りベッドで横になったときだったと思います。 松本君が緊迫したようすで呼びに来ていました。 いいからとにかく来てくれっと。 僕はとにかくついていきました。 村上の部屋に行き、坂本君は泣き、手に血がついていました。 松本君の手にも血がついて、ベッドに村上は横になっていて何かの冗談だと思い… 体をゆらしました。 何も反応がなく初めて村上は死んでいると認識しました。 憎いとはいえ、今日の朝に洗って洗ってもあの感覚は忘れることはないでしょう」
山田は口を閉じて、手を見た。
「休憩するか?」
「はい」と山田は小さな声で答えた。
沈黙のときは2、3分と流れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます