1-2 取り調べ

 上田忍はガラス窓から外をみた。 さっきより雪はひどくなっていく。 ヒューヒューと風の音が聴こえる。

 上田は昨日を思い出す。 昨日と同じく雪はひどかった。 風は強く、一歩あるけば周りの視界はそんなひどい状況だった。

 だが、上田と相棒の田中潤が駆けつけたときには雪は弱っていた。

 当時の状況の大学生3人は口を開こうとしなかったのだ。 無理もない。 人が初めて死んだのを見てしまったのだ。

 話せるような精神状態ではないだろう。

 大学生3人を上田は帰して、また次の日にくるように告げたのだ。

 また、こうして来ている。

「先輩、あの時帰して今日にしたんですか?」

「あの3人の様子を見ただろう。 話せるような状態じゃなかっただろう。」

「確かに…だけど、少し落ち着いてから話を聴く選択もあったはずです。」

「俺はそう思わない。 メガネ姿の大学生は今は少し落ち着いて聴けるような様子だ。 3人の証言が必ず必要だ。」

「まぁ、いいですけど。 上は速く解決してほしそうですね。」

「当たり前だろう。 マスコミの大注目を浴びてんだ。 コテージで1人殺害されて、雪もひどかったとくる。 まるで小説でありそうな状況じゃないか。」

「確かに言えてます。 話は変わりますけど、コテージでそもそも聴く必要があるんです?」

「速く解決するためだ。 犯人の立場になって考えてみろ。 殺害現場から離れたいはずだ。 だがな、殺害現場で取り調べをすれば何かミスをするはずだ。 相当なストレスだ。 お前はそんな状況に長いこと居られるか?」

「居られないですよ。」

「そうだよな。 普通はそうだ。 その状況を楽しむ奴がいたら別の話だな。」

「やめてくださいよ。 先輩じゃあるまいし。」

「ったく。 水をさすんじゃねよ。 あぁ、楽しんでいるよ。」

「ほら、やっぱり。」

 田中はやれやれと言わんばかりにため息をつく。

 ドアが開いた。 弱々しい印象を受ける大学生だ。 身長は170cmくらいで細身。 髪はボサボサで、長髪であり額の中心を紙を分けている。 黒いメガネをつけている。

 青いジーンズに黒いパーカーをつけている。 パーカーの上にジャケットを羽織っていたようだ。

「あの…」と弱々しい声で山田は言う。

「どうぞ、座ってくれ。 昨日も会ったな。 俺は上田忍、こいつは田中潤だ。」

 田中はパソコンを打ち込むポーズをやめて、愛想よく「どうも」と言うだけだった。

 部屋の状況は昨日より良くなっていた。 血はキレイにとはいえないが、拭き取られている。 血生臭さは和らいでいる。

 1室の広さは10畳くらい。  シングルサイズのベッドが横向きに北西の角にある。 クローゼットがベッドから2歩くらい歩いたところにある。 反対側は机とイスがセットになっている。

 南東は風呂場と洗面所があり、人が1人入るのに十分なスペースだ。 

 山田の前には両ななめに上田と田中と座っていた。 手を伸ばしても相手に届かない。 間に机が置かれている。

「まず、君のことを教えてくれ。」

「え…山田太郎です。」

「いや、それだけじゃなくて君がどこの大学に行っていて、昨日の出来事を話してほしい。」

上田は心の中で毒をはく。

 -ちっ、いろいろと自己紹介をするもんだろう。 名前だけを言うもんじゃないだろう。

「すみません。」と山田は髪をさわった。

「取り調べを受けることが初めてなのもんで」 山田はへっへっと笑う。

 上田はこういうタイプかと感じた。 緊張すると笑う。 笑って自分をリラックスさせようとするか相手をなごませるための笑いだ。 後者のタイプは気が弱い。 あるいは不安感が人一倍強い。

 上田は強くおせば、話してくれそうだと予想した。

「N大学に通っています。 昨日はサークルの4人でコテージで一年ぶりに泊まろうと話になりました。 だけど、知ってのとおりコテージにいる時間のほうが長かったです。」

 上田はボリボリと頭をかく。 話が進まない。 こっちは訊きたいことを絞っていけないようだ。

「歳は? 君らの関係性は?」

「え? 20歳です。 そうですね。 大学1年のときにサークルを立ち上げて仲良くなったというか。」

 上田は言葉に引っかかった。 立ち上げて仲良くなった?

 それまでそのサークルはなかったのか。

「松本君に誘われて入りました。 高校生からの仲で僕は弱虫で人とあんまり仲良くなれないです。 人と話すのは苦手で、そんな僕を松本君は変えてくれました。 あ! 話それましたね、松本君を介して2人は知り合いました。 授業が一緒だったからだったけな。 サークルの内容はとにかく旅をするんです。 土日になったら必ずどこかに行っていました。まぁ、四人とも空いている時間が結構あったら近場に行ってましたね。 」

 ー サークルとはそんな適当なもんだったかな。 俺が学生のころはもう少し目的があったような気がする。

「近場から遠くまで行っていたわけだ。 このコテージは誰の親のもんだ?」

「坂上君です。 彼の親はお金持ちで家族自体がアウトドア派で実質彼だけのようなもんです。」

「ほぉ~譲ってもらったわけだ。」

「そうです。」

「金持ちっていうものはいいもんだな。1人だけのときもあるのか? 誰か一人だけ泊まるなんてことは? 」

「坂上君はどうか知らないけど、僕らは坂上君の許可を得ないと泊まれないですよ。 と言っても彼が一緒じゃないとだめなんです。」

「どうしてだ? 仲がいいんじゃないのか。」

「ほら、親しき仲にも礼儀ありって言葉あるでしょう。 ちゃんとそこは分けてんですよ。」

「そうかい。 村上勇気はどうして殺されたと思う?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る